1. 『One Size Fits All』
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『One Size Fits All』(1994)1994
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Review

-より高い次元で求めるもの-

前作にあたるデビュー作同様、安心のトレヴェル印。当然のことながらジェラルド・リヴァート(Gerald Levert)エドウィン・ニコラス(Edwin “Tony” Nicholas)の名コンビが大きく関与しているこの時点で間違いの無い作品であることが確定している。とはいえ、前作との比較など、その高い次元で期待してしまうことは避けられない。そんなリスナーが多かったのではないかと思われる2ndである。

-“L”と“S”、揃い踏み-

今作には前作には参加していなかったキース・スウェット(Keith Sweat)及びその人脈が力を注いでいる。作品の核となるのは、間違いなく本人をフィーチャーした⑤「Don't Cry」ということになるのは明白である。
 この曲が面白いのは、制作面でキースがイニシアチヴをとっていることである。アルバムは全体的にジェラルド&ニコラスがプロデュースをしているなかで、この核となる楽曲をキースに委ねるというジェラルドの心意気を感じることができる。キースの「Merry Go Round」[*1]のようなねっとりとしつつも、メロディラインがきれいなスロウは、ジェラルドの“吠え”と、キースの羊声が絡んでくるという、文句のつけようのないイントロから始まる。もちろん主旋律はメン・アット・ラージの2人が歌うわけだが、大物2人に囲まれているにもかかわらず、負けずと歌い倒す。後半に向けて、“L”と“S”がもっと前面に出てくるのかと思いきや、そこまではない。ここはあくまでプロデューサー側に廻って、主役をたてたのだろうが、筆者としてはその果てしなく濃い風景も見てみたいと思った。

-お家芸-

その他の楽曲も予想通りの高水準。ジェラルド&ニコラスによる楽曲はまるでハズレがない。妖艶な雰囲気なミディアムの⑨「I Wanna Roll」、横揺れにうなだれるミディアムスロウの⑩「Funny Feeling」、タイトルの割に暗い雰囲気というのは、詞中の主人公の本気度が高いからなのか?と思ってしまう求婚ソングの⑪「Will You Marry Me」という、後半の“消化した後の成熟したニュージャック・スロウ”3連発はもちろん、いかにもレヴァート(Levert)な三連系スロウの③「Holiday」など、安定感をもって楽しめる。
 その中でも白眉といえるのは、シングルにもなった②「Let's Talk About It」だろう。R&Bチャート16位を記録した同曲は、アルバム中一番のハッピーソングといえる明るさを誇る。ゆったりとしたグルーヴに優しげなギターも程よく配され、ニュージャック特有の“スココン音”もきちんと残す処理。最後にコーラスをたたみかけていき、語りで閉じていき、直後にへ繋がっていくなど、どこまでも工夫されている。

-トレヴェル以外から-

キース人脈で参加したのはアルトン・ステュアート(Alton “Wokie” Stewart)[*2]である。オープニングを飾る①「I'm In A Freaky Mood」は、彼らしい哀愁を感じる切ない系ミディアム。また、メン・アット・ラージの2人と共作した④「Good Things Don't Last」もイントロの泣きのギターやどことなく漂う憂い感は、ジェラルドらとは違うアプローチを見せながら、彼らの可能性を広げているように感じる。ただ、あまりにヒップホップな⑦「Better Off By Myself」はちょっと・・・。可能性は広げているのだろうが・・・。

-ひとまず幕を下ろす-

この作品のあと、メンバーのジェイソン・チャンピオン(Jason Champion)は脱退。事実上解散と成、彼らの第1章は本作で終了した。なお、ジェイソンは、カーク・フランクリン(Kirk Franklin)の作品への参加や、メアリー・メアリー(Mary Mary)のツアーに同行するなどの活動を経て、2009年にソロでゴスペル作『Reflections』をリリースしている。

(2022.07.19)

[*1]キース・スウェットの2nd『I'll Give All My Love To You』(1990)所収。
[*2]アーティストとして表舞台に立ったのは、1989年にリリースしたソロ作『All Our Love』のみだが、それから他のアーティストのプロデュース活動に専念して大成。ベル・ビヴ・デヴォー(Bell Biv DeVoe)『Poison』(1990)ラルフ・トレスヴァント(Ralph Tresvant)『Ralph Tresvant』(1990)、キース・スウェット『Keep It Comin'』(1991)、シルク(Silk)『Lose Control』(1992)など、90年代初期のヴォーカル・グループを支えた。

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