器用貧乏。あまりいい言葉ではないのだが、どうしてもそう思ってしまう。アイズレー・ブラザーズ(The Isley Brothers)のメロウネス部門を支え続け、絶頂期に脱退騒動。新しく発足したアイズレー・ジャスパー・アイズレー(Isley Jasper Isley)も3作で消滅。クリスを除いたメンバーはアイズレーズに復帰…。いい楽曲を作るのに、いいところまで行くのに続かない。そんな歯がゆい思いをし続けてきたような気がする。
「音楽のビジネスで成功するには、その楽曲(の権利)を保護することに、本人がいかに興味を持つ事か、である。」
と本人が語っているように、おそらく自身にその件に関する苦い経験があるのだろう。
オハイオ州シンシナティ出身。1951年12月30日生。アイズレー・ブラザーズに正式参加したのは1973年の『3+3』から(グループでの活動はアイズレー・ブラザーズの項参照)。アイズレーズのメロディアスなイメージを創設したのはクリスといっても過言ではない。彼の音にロナルド・アイズレー(Ronald Isley)の歌声がのることによる相乗効果は大きかった。
グループ脱退後、1984年にアイズレー・ジャスパー・アイズレーを結成。「Caravan Of Love」をR&Bチャートを制覇を成し遂げるものの、前出のとおり、3枚のアルバムを発表し、解散する。
解散後、すぐにソロ活動を開始。EPICから1st『Superbad』をリリース。グループでの作品と変わらない音(良い意味で)で制作されている。その後、自身のレーベル、ゴールド・シティ・レコード(Gold City Records)を設立し、2nd『Time Bomb』を発表する。そのレーベルからはリズ・ホーグ(Liz Houge)、アウト・フロント(Out Front)、ブラザーズ・バイ・チョイス(Brothaz By Choice)などが作品をリリースし、すべてクリス自身がプロデュースをしている。
2000年代に入ると自身の活動を中心にマイペースに、とはいえきちんと活動を継続。2001年の『Faithful and True』を皮切りに、2022年までに10枚の作品[*1]をリリースしている。彼のようなベテランがこのペースでアルバムをリリースし続けるのは驚異的で頭が下がる。そのアルバムを聴くと“Changing Same”という言葉がピタリと当てはまり、その素晴らしさが理解できる。
私生活では女優であり、シンガーであったマージ(Margie Jasper)と1983年に結婚。3人の男の子を授かった。彼ら息子たちもレーベルに関わっており、2010年には末っ子のマイケル(Micheal Jasper)がアーティストとして作品『Addictive』を発表している。まさに家族ぐるみでの活動といえる。
そんな幸せな生活だったか、2024年12月にがんの告知をうけ、その2カ月後の翌2025年2月23日に73歳で逝去。家族の声明には「非常に愛情深い夫であり父だった」とあり、クリスの人柄がうかがえた。是非父の遺志を引き継いで、彼らしい作品の継承を期待したい。
[*1]自身のレーベルを持っているという強みを最大限に活かしている。ジャケットの雰囲気がずっと一緒なのは、2005年の『Amazing Love』でアートワークを担当した息子さん、ニコラス(Nicholas:次男)の影響か。
(2012.09.02/2025.07.05)