大手データ調査会社ニールセン(Nielsen)によると、2017年は、「ロックよりR&B・ヒップホップのほうが売れた初めての年」になったそうだ。ブルース、ゴスペルから派生したこのジャンルの隆盛に、アフリカン・アメリカンの方々は何を思うのだろうか。いずれにしても、多くの聴衆を惹きつける、魅力的な音楽であり、それが広く認知されたということだろう。
そんな背景もあり、グラミーの主役はブルーノ・マーズ(Bruno Mars)。『24K Magic』は、日本でも多く流通した。アフリカン・アメリカンではない彼が最優秀レコードを受賞するということが、上記背景の象徴ではないだろうか。
R&Bシーンは前年からのながれもあり、変わらずEDM、アンビエントというような(筆者が少し苦手とする)うたい文句が目立つ。例えばブライソン・ティラー(Bryson Tiller)のようにヒップホップに寄ったとしても、自身の音楽を“トラップ・ソウル”と呼ぶくらいに、コンピュータとの親和性は市民権を得ているようだ。
この空気感とでもいうのだろうか。わざと作られているのだろうか。80年代中盤を意識させられる。ホイットニー(Whitney Houston)やアニタ・ベイカー(Anita Baker)らが中心になったポップスへの接近とコンピュータとの融合。ともすれば、後に“ソウル不遇の時代”などと揶揄されたあの時代。ただ異なるのは、あの時代はアフリカン・アメリカンから白人に近づいたわけだが、現在はその逆の状態ということだろう。
そのような中、個人的な好みとして喜ばしいのは、セヴン・ストリーター(Sevyn Streeter)が歌心を持って(ようやく)現れたこと。80年代後半~90年代のことを思うと、もう少し先に、きっと彼女がもっと活躍するステージが待っていると期待している。
また、シザ(SZA)やシド(Sid)、ケラーニ(Kehlani)などはアインビエント感もありつつ、オルタナティブという、80年代中期と90年代中期の融合という、それを消化したものでしか表現できないようなものを持っていて、頼もしく感じている。
一方の男性陣としては、若者カリード(Khalid)の「Location」が700万枚のセールスを記録。個人的にはあのやる気のなさそうな歌い方が気になるのだが…。
最後に触れておきたいのは、レジェンドであるリオン・ウェア(Leon Ware)の死去。日本においてはマーヴィン(Marvin Gaye)は知っていてもリオンは知らないという方が大半を占めるのだろうが、彼なしでマーヴィンは語れないわけで…。表に出すぎないリオンの活動が好きだった。心よりご冥福をお祈りいたします。
(2019.12.31)
-2017年にリリースされた作品-
『Girl Disrupted』
/ Sevyn Streeter
/ Stokley
『Ctrl』
/ SZA
『H.E.R.』
/ H.E.R.
『3:33 AM』
/ AMBER MARK
『Fin』
/ Syd