1. 『Introducing Stokley』
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『Introducing Stokley』(2017)2017
sunstorm

Review

-なんと前向きな!-

50歳にしてソロデビュー作が『Introducing Stokley』という、なんとも前向きなタイトル。グループでの活動を約30年重ねたストークリーがいうことだから思わず笑ってしまう。
 しかし、だからといって目新しいことを始めるというわけではなく、あくまでミントの延長線上にあるのがこの作品であり、古くからのミントファンも安心どころか、待ってました!の内容になっている。

-3曲目まででK.O.-

アルバムの発売前に先行してリリースされていたのは、レディシ(Ledisi)がコーラスを務める①「Level」[*1]。ストークリーの甘い声を活かした、まるで炭酸水のようなはじける爽やかなスロウになっており、アルバムの中身を大いに期待させてくれるかわいらしい楽曲である。
 この流れをくんで、アルバム発売直前のシングルに選ばれたのは②「Organic」。鍵盤とアコースティックギターをまとって、ともすれば悲しいメロディラインが、“自分は自分のままでいて”というような歌詞にのり、説得力のある前向きなスロウに昇華している。オートチューンのコーラスが“Organic,Organic”と歌っているのが、“オシャレ~、オシャレ~”と聞こえてしまう生粋の日本人である筆者なのだが、まさしくお洒落な楽曲に仕上がっている[*2]。続く③「Think About U」も丁寧な鍵盤の音とBメロからの転調に加え、スティールパンが目立たないように絡んでくるという、まさしくストークリーらしいスロウになっている。
 ここまでの3曲で、この作品をどこかで“ミントのロックな部分が大きく反映されていたらどうしよう…”と半信半疑だった筆者の悲観的な予想を大きく覆してくれた。もうこれだけでも充分満足しているわけだが、作品はまだ始まったばかり。他の楽曲も充実している。

-粒ぞろい-

スロウ3曲で心を掴まれたあとは、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の「I Can't Help It」をサンプリングしたかのような④「Cross The Line」へ。「I Can't Help It」をさらにダンサブルにしたなかに、ストークリーの得意とする早口のコーラスが決まる。ロバート・グラスパー(Robert Glasper)をフィーチャーした⑤「Art In Motion」は、ロバートに寄せた方向性でジャジーにせまったり、わざと荒々しく、ざらついた感じでレイドバックしたサザンソウル風な⑦「Victoria」、スティールパンと口笛の組み合わせでありながらも緊張感も漂わせたミディアムの⑩「Be With U」、出だしからロックな風情で、これは…と思いきやサビからソウルになっていくファンキーな⑬「We/Me」など、これまでもミントでみせてきたように多彩な顔ぶれを紹介。とはいえ、グループの時よりは振れ幅は狭く、聴きやすくまとめられている。
  特筆すべきはエステル(Estelle)を迎えた⑧「U & I」である。実は筆者はエステルはそんなに得意では無いのだが、この楽曲に関しては、2人のフィット感が半端ない。背景に、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツ(Harold Melvin & The Blue Notes)の「Pretty Flower」を引用[*3]していることから、70年代を意識した作りであることはもちろんなのだが、彼女の少しけだるげな声とストークリーの青い声で、さらにその世界観は深まっている。しかし、スクラッチが挟まり、ただの懐古趣味ではなく、現在しか出来ないことをやっていることが理解できる。

-実力派が手がける-

そんな魅力たっぷりの作品を手がけたのは、ストークリー本人と、カルヴィン&アイヴァン(Carvin Haggins & Ivan Barias)が中心である。彼らはそれぞれ、フェイス・エヴァンス(Faith Evans)、ミュージックソウルチャイルド(Musiqsoulchild)や前出のレディシを手がけてきた実績のあるプロデューサーである。そんな彼らとストークリーがタッグを組めば、ブレるはずも無いわけで、手がけたのは②③④⑤⑧⑬と、筆者が気になった楽曲は、ほとんど彼らの手によるものであった。
 彼ら以外にも、ロサンゼルス(Los Angeles,CA)のプロデュース・チームであるA-チーム(A-Team)が、①⑥「Hold My Breath」⑨「Way Up」⑮「Wheels Up」を担当。また、に参加したラッパー、ウェール(Wale)絡みで参加したと思われるシカゴのサム・デュー(Sam Dew)⑦⑪「Forecast」を手がけている。

-待ち望んだ気持ち-

個人的にミントの作品では、『E-Life』の時に“ミントの回帰”を感じたわけだが、その時と同じ感触を久しぶりに感じた。アルバムタイトルの“イントロ”に込められた自己紹介の意義は、昔から彼を知るファンも大きくうなずけたのではないだろうか。

(2022.04.08)

[*1]レディシの他に、ストークリーの息子さんであるアリオン(Arion Williams)が参加しているとクレジットに書いてある。“level vocals”と記述されているから、おそらく“level,level…”と続くコーラスのところなのではないだろうか。
[*2]Windowsでエラーメッセージが出るときの効果音がところどころに入っており、PCを使いながら聴くことが多い筆者は、「あれ?何か間違えたかな?」と何度も戸惑ってしまった。。。
[*3]1972年発表。ストークリーの歌声とは真逆なテディ・ペン(Teddy Pendergrass)の楽曲をサンプリングするところが面白い。どちらも真逆とはいえ、どちらもとても魅力がある。これだからブラックミュージックを聴くことはやめられない。

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