年明けから新型コロナウィルスで世界で流行。パンデミックとなり、全世界が恐怖に震えた。音楽シーンにも当然影響が大きく、ライブ活動ができないことに伝える側も聴く側も戸惑った。そのような背景があり、オンラインライブが広がっていく。伝統のエッセンシャル・フェスティバル(Essence Festival)もオンラインで開催されている。近年のYoutubeなどの隆盛も含めて、映像で見せていくことがさらに急速に求められ、純粋に音楽のみではなく、クロスオーバーしなければヒットしないような構図が確定したように感じた。
そんな、蜜を回避しないといけない年に起こってしまったのは「ジョージ・フロイド(George Floyd)事件」。白人警官が捉えた黒人のジョージの首もとを締め上げ、殺してしまったのである。ここから「Black Lives Matter」(黒人の命は大切)運動が起こり、密集してはいけない中でも、大きなデモなどが起こった。
H.E.R.は、そのジョージが苦しみながら言った言葉「I Can't Breathe」 (息ができない)を、そのままタイトルにして、メッセージ性の強いリリックを記述。この楽曲がグラミーの“楽曲賞”を受賞するという、心から喜んで良いのかわからないものとなった。
そのグラミー賞、最優秀R&Bソングはロバート・グラスパー(Robert Glasper)feat.H.E.R.&ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)の「Better Than I Imagined」。アンビエント感のある楽曲でも、ミシェルが入ることによるソウル感がたまらないものであった。それよりもうれしかったのは、トラディショナルR&B部門でレディシ(Ledisi)がようやく受賞したことであった。受賞曲「Anything For You」は、ディアンジェロ(D'Angelo)のグラミーノミネート作品である「Untitled(How Does It Feel)」をモチーフ、というかそのまま使ったという、いわば少し反則な気もするが、ちょっと太ったその容姿をそのままに歌い倒しているPVを見たときに、本当に良かったと心から思った。このご時世に「あなたのためになんでもしてあげる」というリリックにもほっこりさせられた。
ところでこのグラミーだが、世界的にヒットし、世界30カ国以上でNO.1を獲得したウィークエンド(Weekend)の「Blinding Light」を完全に無視。ウィークエンドも、“今後グラミーをボイコットする”という宣言まで飛び出した。また、R&Bアルバム賞のノミネートは全て男性だったことから、テヤナ・テイラー(Teyana Taylor)は、「単に“男性R&Bアルバム”って言えば良かったんじゃない!」といって、12月には(そのことが引き金となってかどうかはわからないが)引退宣言までしてしまった。
テヤナの言葉は的を射ており、この年に活躍したのは、H.E.R.を筆頭に、ジェネイ・アイコ(Jhené Aiko)、サマー・ウォーカー(Summer Walker)、ビヨンセ(Beyoncé)とその秘蔵っ子クロイ&ハリー(Chloe x Halle)、ドージャ・キャット(Doja Cat)と、思い出すのは女性陣ばかり。もちろんアルバム賞を受賞したジョン・レジェンド(John Legend)やギヴィオン(Giveon)がいたわけだが、個人的にも女性のアルバムから選ぶものもあったのではと思う。
個人的には、上記のような女性陣も悪くは無いのだが、やはりレディシが一番だった。ジャネイ・アイコやサマー・ウォーカーが悪いわけではないのだが、やはり暑さ、熱さ、厚さが足りない気がしてならない。アンビエントとは反比例するのだろうから、仕方ないところなのだが…。
ヒット作から選ぶとすれば、ドージャ・キャット(見た目は苦手ですが…)の「Say So」がお気に入り。とはいえ、この曲はアイス(ICE)で宮内さんと田岡さんがやっていたことそのままではないだろうか。20年以上前にリリースされているICEの一連の作品は、現在にもしっかり通用すること、日本の音楽も米国に匹敵していることが証明されたのではないだろうか。天国で宮内さんが悔しがりながら喜んでいるような気がしている。
毎年書いてしまうのだが、来年こそ野暮ったい男性コーラスグループの復権に期待したい。実現はいつになることやら…。
(2021.03.28)
-2020年にリリースされた作品-
『Bigger Love』
/ JOHN LEGEND
『Chilombo』
/ JHENÉ AIKO
『B7』
/ BRANDY
『Exodus』
/ BRIAN McKNIGHT
『Can We Fall In Love』
/ AVANT
『The Wild Card』
/ LEDISI