1. 『I'll Give All My Love To You』
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『I'll Give All My Love To You』(1990)1990
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Review

-成功を求められる2作目-

「このアルバムを作るには、大変なプレッシャーがあった。ファンからのプレッシャーだけでなく、自分自身のなかからの前よりもいい物を作らなければならないというプレッシャーだ。」

ライナーノートに記された自身の言葉は、筆者が想像するには足らないものだっただろう。デビュー作である前作が評価され、ムーブメンとを生み出す。そして、“ニュージャックスウィング”という名称も与えられた。さらにガイ(Guy)の成功によりこの作品がこけてしまうと、“やっぱりテディ・ライリー(Teddy Riley)の力が大きかったんだ”という確定を産んでしまう。失敗は出来ない、成功するしかない。その一心だったのではないだろうか。

そのような中で作り上げたこの作品は、どちらかといえば、のちにキースの生命線である“スロウ”に軸足を置いたものになっている。成功を求められる中でのこの決断は、よほどの自信がないとできないはずである。

-求められていることをまずクリアする-

“どちらかといえば”と上述しているが、ニュージャックスウィングの生みの親として、前作でみせた「I Want Her」のような楽曲も求められている。それに応えたのが②「Make You Sweat」。緊張感を保ちつつも、あくまでファンクでありヒップホップに近づき過ぎない。このハネにホーン・セクションを加えて、新鮮さを保った。当然リードシングルとしてリリースされ、R&Bチャートを制し、ビルボード100でも14位を記録。この時点で、きっとキースもほっと胸をなで下ろしただろう。

-キースのやりたかったことを世間に認めさせる-

しかし、それはただの通過点に過ぎなかった。アルバムから④「Merry Go Round」(R&Bチャート2位)、⑩「I'll Give All My Love To You」(R&Bチャート1位、ビルボード100でも7位)というスロウ2曲をヒットさせている。チャートに不利なスロウをこうしてチャートインさせるということは、それがいかに良い曲なのかという証明といえる。
 それにしても2曲とも素晴らしい。ミディアムスロウであるは、ゆったりと横揺れしたくなるグルーヴにキースの羊先生と言われる鼻声とがしっくりはまり、唯一無二の楽曲に仕上がっている。また、正統派といえるはアルバムタイトル曲であり、①「Interlude(I'll Give All My Love to You」)から始まりで終わっているという、作品の骨格と言えるもの。前作のタイトル曲「Make It Last Forever」との合わせ技で、”キース=歌、シンガー“という世間的な位置づけは固まったと言える。

-もっと話題になって良い楽曲たち-

上記楽曲の好セールスもあって見落とされがちがだが、もっと注目されて良いのは、⑦「Just One Of Them Thangs(Duet With GERALD LEVERT)」。その後LSGを組む”LとSの声“が、初めて溶け合った。ザップ(Zapp)風のイントロから始まり、甘いキースの声と渋いジェラルド(Gerald Levert)の声があまりにエロすぎる。とても「I Want Her」や「Casanova」[*1]で有名になった二人とは思えないアダルトな世界である。この後の二人の方向性を示すべく1曲になっている。
 また、⑧「I Knew That You Were Cheatin」は、「Make It Last Forever」のジャッキー(Jacci McGhee)が参加。クレジットを見たときに“完全に2匹目の土壌を狙ったな”と思わされたが、今回はジャッキーはあまり前面にでることはなく、コーラス[*2]程度。歌詞を含めて楽曲に漂う悲壮感をうまく表現されている。

その他、⑤「Your Love」⑥「Your Love Part2」[*3]はフロア向け、軽めのアップ⑨「Love To Love You」など、たとえがヒットしなくても、という保険になるような楽曲がひしめいている。その中でも、三連系のミディアムの③「Come Back」は、ニュージャック前の雰囲気に、ニュージャックのスネアを重ねたもので、新しい作風を見せていて、このあたりにキースの幅を感じる。

-実力の証明-

ニュージャックは、“テディ・ライリーのもの”的な論調が多いわけだが、この作品を聴けば、1stでもキースがいかに製作に携わっていたかがわかる。また、ヒップホップよりのテディ[*4]よりも、もっと“ウタ”を重視していたことが明確になる。背景を考えると、もっとキースを応援したくなるはずだ。

(2021.05.09)

[*1]レヴァート(Levert)の87年発売のシングル。R&Bチャートを制し、ビルボード100でも5位を記録したかわいいポップな楽曲。このポップさは、キャロウェイ(Calloway)のレジー(Reginald)がプロデュースしていることで大きくうなずける。
[*2]コーラスには、トゥループ(Troop)から、スティーヴ・ラッセル(Steve Russell)が参加している。その後の彼の方向性をみると、ここでの経験はものすごく糧となっているに違いない。
[*3]アイズレー・ブラザーズ(The Isley Brothers)のファンは、どうしても“Part2”ってつけがち。ここでは曲を分割しているので、そうとも言えないかもしれないが、意識していることは間違いない。
[*4]テディは、キースから誘われたときに、“R&Bは作らない”といって断ったそうである。このことからも、テディ一人の物でないことがわかる。しかし、キースがこうしてアダルト路線の第一人者になってしまったことが、余計ニュージャックスウィングと結びつかないようになってしまった。皮肉な物である。

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