1. 『Keep It Comin'』
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『Keep It Comin'』(1991)1991
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Review

-自信を持っての3作目-

プレッシャーとともに制作した2作目は大成功。キース自身も“これで間違いない。自分の考えは正しかった“という自信を持ったに違いない。そのためか、レコード会社からの指示だったのか、この3作目は1年ちょっとのインターバルで届けられた。前作で推し進めたヴォーカル重視の姿勢、スロウに力点を置くことを意識させられる内容になっている。

-ニュージャック卒業盤と言われてはいるものの-

とはいえ、まずはニュージャックのアップを挨拶代わりにリリース。先行シングルとなった①「Keep It Comin' 」は、ストリート色を求める既存のファンへ向けている。クール&ザ・ギャング(Kool & The Gang)の「Jungle Boogie」というクラシックをなぞりながら、翌年アルバムデビューするジョー・パブリック(Joe Public)[*1]を楽曲の制作・コーラスに招いたという、新旧の融合を図ったこの曲は、当然のようにR&Bチャートを登頂している。

続く②「Spend A Little Time」も同路線。ここではチャーリー・ウィルソン(Charlie Wilson)という大御所を迎えているのだが、キースの羊声と対照的に吠えるアンクル・チャーリーのコーラスが融合。この対比が面白い。ジェームス・ブラウン(James Brown)の「Sex Machine」をサンプリングした④「I Really Love You」もスピード感があり、まさにニュージャックの王道といった音作り。今聴くと古いという意見もあるようだが、何度も繰り返し聴くことで味が出てくる。⑤「Let Me Love You」もアップなのだが、サビを女声コーラスが歌うことにより、ミステリアス感が生まれ、緊張感の中にも切なさを印象づけてくれる。

上記3曲を手がけたのはキースとスタンリー・ブラウン(Stanley Brown)[*2]。当時はまだ駆け出しで、知られている存在ではなかったが、この後の活躍を予感させる仕事ぶり。それにしても1曲くらいはスロウも手がけて欲しかったと思うのは必然だろう。

-10分の6-

残りは全てスロウである。まずはシングルにもなった⑥「I Want To Love You Down」が出色の出来。チャートアクションはR&B20位と(当時のキースとしては)あまり良い物では無かった。しかし、時を越えてこの楽曲の評価は高く、このアルバムといえばを思い出す人も多いようだ。
 もう一つシングルとなったのは③「Why Me Baby? 」L.L.クールJ(L.L.Cool J)がラップ(というかポエトリー・リーディングに近い)で参加したり、唯一テディ・ライリー(Teddy Riley)がキーボードで参加した楽曲という話題性も手伝って、R&Bチャート2位と記録している。楽曲の中に、1stから「Right And A Wrong Way」、2ndから「Merry Go Round」という後のキースのイメージを決めた2曲の節を引用しているところからも、この曲に重きを置いていることがわかる。

また、話題性は少なかったのだが⑨「Give Me What I Want」⑩「Ten Commandments Of Love」の2曲は、ケニ・バーク(Keni Burke)が手がけている。ケニといえば、どちらかというと今までは大御所を中心に手がけていた気がするが、そのケニが認めたからプロデュースを引き受けたのではないだろうか。その後、メアリー・J・ブライジ(Mary J.Blige)などの作品にも参加しているのだが、若手でプロデュースしたのは、この頃が初めてだったのではないだろうか[*3]。いずれにしても、キースのこのアルバム後の世界観と、「Make It Last Forever」をきれいにつなぐ楽曲に仕上がっている。ちなみに、にはデビュー前のシルク(Silk)も、コーラスで参加している。

-これこそスルメ作品-

筆者にとって、アルバムとして初めて聴いたキース作品だった。正直な話、最初はあまりピンと入ってこなかった。とにかくだけが際立って好きで、よく聴いていた。
 しかし、アルバムとして何度も何度も繰り返し聴くたびに、どんどん引き込まれていった。派手な印象がない分、実はあまり聴いていないという方も多いのではないだろうか。是非とも今一度聴き直して、その魅力を感じてもらいたいと思う。

(2021.05.22)

[*1]本作から約半年後の1992年5月に『Going Public』でデビューしたカルテット。楽曲中に“キース・スウェットでも流して、明かりを消して…”というフレーズが出てくる曲「When I Look In Your Eyes」も収録。
[*2]本作の前にはトゥデイ(Today)のデビュー作、本作後はジャッキー・マッギー(Jacci McGhee)、チャーリー・ウィルソン(Charlie Wilson)、ドゥルー・ヒル(Dru Hill)マイロン(Myron)プロファイル(Profyle)という本格派の作品に携わる。また、ゴスペルでもジョン・P・キー(John P.Kee)やカレン・クラーク・シェアード(Karen Clark-Sheard)らを手がけていた。2010年代以降はA&Rとしての活動が主だった様子。
[*3]All Music Guide参照。

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