-大成功を収めた、その次は…-
セルフ・タイトルの前作は大成功を収め、そのままLSGの1stをリリース。こちらもビルボードHot200で4位を記録。ベスト盤『Just A Touch』森リースし、まさに充実の期を迎えていたキースが、その次に放った自身のアルバムである。
いままでにないテイストのジャケットは何を物語るのか…。ストリートへ降りてきた佇まいである。“え?ヒップホップに寄せた??”と心配した筆者…。やはりキースでも時流には逆らえないのか…。
-杞憂-
先行シングルは①「Come And Get With Me」だったわけだが、スヌープ(Snoop Dogg)の名前が躍る。これはやはり…と聴いてみると、意外やマイナー調。スヌープもブリッジの部分でポエトリーリーディングとまではいかないが、それに近いラップを聴かせている程度に留まっている。正直思っていたより地味だったわけだが、ある意味ホッとしたのは事実であった。
ただ、どうしてもビブラスラップの音が気になる…。数が多すぎて、頭から離れなかった。これをプロデュースしたウィズ(The Wiz)の仕業なのだろうが、このアルバムでは④「Let Me Have My Way」⑦「Too Hot」⑪「You Know I Like」と合計4曲を手がけており、大きく抜擢されたと言って良い存在である。個人的には④⑦は苦手で、こういう人なのかと思っていたところ、スロウの⑪は起死回生の仕上がり。この人はどうなのか、さっぱりわからなくなってしまったというのが本音である。
-充実のスロウ群。前作同様に高水準-
エリック・サーモン(Eric Sermon)やプレイヤ(Playa)が参加した⑥「Love Jones」を含めて、個人的にちょっと…という楽曲はいつもより多いのは事実。だが、その反動なのか、スロウの充実度は高い。
本作に参加しているオル・スクール(Ol Skool)のボビー・クロフォード(Bobby Crawford)がキースと共同プロデュースした③「Can We Make Love」は、打ち込まれたプログラム音が前作を踏襲。一気に「Nobody」の世界に連れ込まれる。
やや重たい雰囲気の⑤「What Goes Around」は前作でコーラスを担当したダリル・アダムス(Daryl “Dezo” Adams)[*1]によるもの。途中のCメロから救われるように、天に昇るような優しくなる部分があり、この変わり身が気持ちいい。
盟友ジェラルド・レヴァート(Gerald Levert)一派であるルード・ボーイズ(Rude Boys)のジョー・リトル(Joe Little Ⅲ)が共作した⑧「I'm Not Ready」[*2]は、彼が得意とするむせび泣くような切ないマイナー系。ブリッジの部分は、デイヴ・ホリスター(Dave Hollister)が吠えそうなメロディラインなのだが、そこをキースが精一杯歌う。これが決してバランスを崩すことなくしっとりとさせてくれる。
ジェラルド本人は⑩「Just Another Day」の作曲に参加。LSGをやったばかりということもあり、コーラスにすら顔を出していない訳だが、それでも充分オハイオの香りが充満している。また、おそらくジェラルドつながりであろうビッグ・ベイビー(Big Baby)[*3]が作品の締めを担当。こちらも美しい鍵盤から若干ニュージャック風の打楽器音を加え、キースらしさを表現したスロウになっている。
前掲の⑪は、期待していなかった(失礼!)ウィズのプロデュースだったこともあり、こんなミディアムもできるんなら、こっちをもう少しやってくれたらなと思わされた。
-大きな振り幅-
上記のとおり、これほどまでに振り幅が大きいキースの作品は初めてだった。例えばキースはアップの「I Want Her」や「Make You Sweat」が好き、という方にはおそらく物足りない作品なのではないだろうか。ただし、筆者のようなスロウマニアにはたまらない粒ぞろいの楽曲がそろっている。筆者はトータル(アルバムで)で聴きたい派なのだが、この作品は曲を選んで聴いてしまうことが多く、それは反省点と言えるのかもしれない。
(2021.07.01)
[*1]ブラックストリート(Blackstreet)の『Another Level』でベースを担当している。
[*2]アルバムからシングルカットされた。全米16位を記録。
[*3]ジェラルド(Gerald Levert)のアルバム『Love & Consequences』にプロデューサーとして参加。アーロン・ホール(Aaron Hall)『Inside Of You』でもプロデューサー、有名どころでは、マライア・キャリー(Mariah Carey)やジョー(Joe)の作品でキーボードを弾いたりしている。