-4年ぶりとはいえ-
94年の『Groove On』以来の4年ぶりのソロ。とはいえ、ご無沙汰感は全くない。パパとの『Father & Son』が95年、97年には本体のリヴァート(Levert)の『The Whole Scenario』、そしてLSGの1st『LSG』の2作をリリース。そして翌年に本作を届けてくれるという、プリンス(Prince)なみの作品ラッシュとなった。
-シーンの動向-
その4年間にブラックミュージックシーンは大きな変革期を迎えていた。ニュー・クラシック・ソウルと言われたブームが落ち着き、96年のアリーヤ(Aaliyah)の2nd『One In A Million』に起因するティンバ・ビートが拡がり、隆盛を極めていた。そのシーンの最中、ジェラルドはどのような立ち回りをみせるのか…。
-きちんと取り入れる-
結論から言うと、本作はそのシーンの状況をしっかりと踏まえたものになっている。となると、筆者的には非常に苦手なはず…。①「No Sense」を聴いたときに、スロウながらもチキチキが入っている。もしかして…と危惧してしまった。ボンサグ(Bone Thugs-N-Harmony)からレイジー・ボーン(Lazy Bone)を迎えているあたりも、まさかの変化があるのか…。
しかし、そこはジェラルドである。安心印のトレヴェルである。その心配事はすぐに消化された。②「thinkin' Bout It」を手掛けた2000ワッツ(2000 watts)のディライト(Darrell “Delite” Allamby)一派のリンク(Lincoln “Link” Browder)とアントワネット・ロバ―ソン(Antoinette Roberson)と熱く掛け合う、ヴォーカル・ワークを聴かせてくれる。後半の掛け合いは、まさしくジョデシィ(Jodeci)の「Cry For You」[*1]そのままで、熱い、厚い、暑い!
時流のビートを入れつつも、しっかりと伝統に乗っ取る。ジェラルドが晩年まで第一線で活躍できた理由は、この楽曲に見ることができると言える。ちなみに⑩「Taking Everything」もこの体制で作られている。
-話題作りではあるものの-
続く③「Point the Finger」は弟シーン(Sean Levert)との掛け合い。言うまでもなく、相性が悪いはずもないスロウ。派手さはないが、少ない音数は二人の声を楽しめるものになっている。しっかりとオージェイズ(The O'Jays)の「Back Stabbers」を引用しているあたりにニヤニヤするファンは多いと予想される。
また、ゲストで言えばメアリー・J・ブライジ(Mary J.Brige)のほうが話題になった。⑤「That's the Way I Feel About You」は説明不要のボビー・ウーマック(Bobby Womack)[*2]のカヴァである。こうしたクラシックを、シーンに影響力のあるメアリーときちんと伝えいていく、古き良きソウルの伝道者としての役割も果たしていると言えるのではないだろうか。
-外部との交流がいつもより多く-
ところで、この作品は、ジェラルドとニコラス(Edwin “Tony” Nicholas)コンビの楽曲以外の、外部との共作ものがいつもより多く収録されている。既出の2000ワッツ意外にも、ルード・ボーイズ(Rude Boys)のジョー・リトル(Joe Little Ⅲ)、マニュエル・シール(Manuel Seal)とオールスター(Allen “Allstar” Gordon)などが中盤の楽曲に参加しているが、なんといってもR.ケリー(R.Kelly)の参加に期待せずにはいられなかった。
その⑨「Men Like Us」は、まじめなほう?のケルズ氏の作風そのもののバラードだが、LSGで歌っている「My Side Of The Bed」同様、ジェラルドの味付けがしっかり施されている。流行にすたれることのない楽曲と言える。
-パパではなく息子を登場させるとは!-
終盤はジェラルドとニコラスのコンビによる落ち着ける展開。その中でも⑬「Humble Me」の可愛さが際立つ。カワイイといっても、ルード・ボーイズやリヴァート「Casanova」で魅せる“ポップな”ものではなく、しっかりソウルしつつ、そこに息子のレミカくん(Lemicah Levert)[*3]の声を入れるという反則技である。レミカくんとの会話がブリッジとなっており、そこで聞かせる父親としてのジェラルドの姿に心が温まる。
-ここからさらに深みを増したのでは-
伝統と流行。自分と家族。そんな立ち位置がしっかりとした本作。外部を招聘してもブレることのないジェラルドのソウルは、ここからさらに密度を増していく。そんな分岐点と言えるのではないだろうか。
(2020.10.03)
[1]『Diary Of A Mad Band』所収。デヴァンテ(DeVante Swing)の真骨頂ともいえる暑苦しいスロウ。
[2]ボビーもボンサグもオハイオ洲クリーヴランド出身。同郷の先輩後輩を取り上げたり、本当に地元愛の深い人だったんだと思う。
[3]現在は成長し、おじいちゃん(エディ・リヴァート)と一緒に音楽活動をしている模様。