1. 『Player's Call』
  2. ORAN JUICE JONES
  3. artist
  4. privatesoulmusic
『Player's Call』(1997)1997
player's Call

Review

-気になる組み合わせ-

「The Rain」ではR&Bチャートも制し、その後立て続けに3枚のアルバムをリリース。その後名前も聞かなくなってきた90年代後期、突如としてリリースされたのが本作品である。しかも、あのハイ・サウンドのウィリー・ミッチェル(Willie Mitchell)が全編プロデュース。ヒューストン生まれのジュースであるが、いままでのサウンドに南部の影響は皆無といえるものだったので、どのようなものになるのか…。ウィリーに師事を求めるのは、どちらかというと歌えるシンガーが多く、肉厚に感じる作品が多い訳だが、ジュースは歌えるほうでは無い。筆者はこの作品がある程度の評価を得た後に聴いたわけで、そのため良作であることはわかっていたのだが、やはり二人が結びつかない。どんな音になっているんだろうか…。

-ニューヨークの夜-

結論から言えば、ハイ・サウンドではなく、ジュースの世界観をウィリーがサポートしたような作品となっており、ジャケットの雰囲気のまま、といえる。メンフィスというよりは、やはりニューヨークのイメージである。
 全体的に淫靡な雰囲気をもち、密室間の高いこの空気感は、この作品の前年にリリースされている、マックスウェル(Maxwell)『Urbun Hang Suite』にかなり接近しており、ニューヨーカーの夜がみえるようである。特に④「Cold Blooded」などは、まさしくステュアート・マシューマン(Stuart Matthewman)の作風で、シャーデー(Sade)まで見えてくる。

-危険な世界への入り口-

フィーチャリングされているステュラージ(Stularge)のバスヴォイスが語りかけ、狂いながら歌うギターで悪を演じるようなオープニング①「So Forth On」から都会の色。危険な夜に招待されるような入りなのだが、②「Underworld」ではピアノの音色から入り、紳士になる。ストリートから屋内に入り落ち着いたような佇まいである。と安心させたところで怪しげなホーンが聞こえてくる③「Purse Comes First」。やはり危険な匂いは断ち切れない。
 前出のも緊張感をもったグルーヴのループで迫る。スロウの⑤「Player's Call」では、ステュラージの低音とジュースのテナーが対照的に響き、ここで説得されたように陥落。甘く危険な香りに服従することを誓うのであった…。

-秀逸なスロウ2曲-

以降も同様に怪しい夜の雰囲気がコンセプトのように進んでいくわけだが、スロウの⑧「Gigolos Get Lonely Too」⑨「Make Love Your Mind」は、楽曲の完成度が秀逸。中でも、キャメオ(Cameo)の「Hangin' Downtown」[*1]をサンプリングしたは、本家よりもループ感を強調させ、より怪しく。そしてこれにのるステュラージの声が、まさしくバリー・ホワイト(Barry White)そのもののようだし、さらに女性の官能の声も入ってきて…。ソウルの美味しいところがぎゅっと濃縮されたような楽曲である。

-ボーナス・トラックとして扱いたい-

それぞれの曲として、オハイオ・プレイヤーズ(Ohio Players)⑪「Sweet Juicy Thang」[*2]アル・グリーン(Al Green)⑫「Let's Stay Together」[*3]は当然大好きなのだが、実は本作には要らなかったような気がする。もちろん、2曲ともに悪くないわけだが、どうしても全体的なコンセプトがぶれてしまうような気がする。怪しい雰囲気を保って⑬「From The Heart」で終わらせても良かったのではないだろうか。ボーナス・トラックだと思って納得させている。

-もっと語られて良い作品-

それにしてもこの作品はあまり大きく語られてこなかった。bmr誌の『ヒップホップ/R&B ランキング500![1990~1999]』の、1997年のランキング50位以内にも入っていない[*4]。前出のとおり、マクスウェルの1stが好きな人なら必ず強く推すと思う。それくらい充実した作品である。

(2021.01.09)

[*1]キャメオは、筆者としてはどうしても苦手な部分があるのだが、こういった秀逸なバラードがあるからやっかいなのである。
[*2]原曲はもちろん「Sweet Sticky Thing」
[*3]楽曲を背景に、ジュースと女性がしゃべりまくるというだけで、単純に歌ってカヴァしているものではない。ウィリーは良く許可したなぁと懐の深さを感じた。
[*4]1997年は確かに他に良作が多すぎて、ランキングをつけるのも難しいと思う。そしてジュースの歌声もソウルフルじゃないし…。ただ、AORの世界ではマイケル・フランクス(Michael Franks)もいるわけだし、もっと評価されても良いのでは無いかと思う。

List

TOPへ