1. 『Get Up On It』
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『Get Up On It』(1994)1994
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Review

-KEIAの設立-

キースの次女の名前であるキーア(Keia)。その名前をそのままレコード会社にした。本社はアトランタ(Atlanta)。出身地のニューヨークを離れ、当時一番勢いのあった街へ居を移した。そこで見つけたシルク(Silk)をキーア・レコード第1弾アーティストとして契約。キース自らがアルバム『Lose Control』(1992)を全編プロデュースするほど力をいれた彼らは、シングル「Freak Me」でPOPチャートを登頂する。キース本人の前作『Keep It Comin'』(1991)が、(キースとしては)数字がとれなかったわけだが、きっちりと巻き返している。そんな背景があっての4thである。

-本当のニュージャック卒業盤-

お決まりは先行シングルはアップ、つまりニュージャックがキースの定番だったわけだが、1994年となっては、流石にそうはいかなかった。今回の相方に選んだのは、ロビー・マイカルズ(Robbie Mychals)ロレンゾ(Lorenzo)のアルバムで腕を振るっていた、フィッツジェラルド・スコット(Fitzgerald Scott)。彼と共作した②「How Do You Like It?(part 1)」がシングルとなった。TLCレフトアイ(Lisa “Left Eye” Lopes)のラップを挟んだりストリート色は出しつつも、淡々とドライに刻んでいくビートは、カット・クロース(Kut Klose)のコーラスと溶け合い、リスナーにきちんと受け入れられた。この4thからのシングルとしては唯一のR&BチャートTOP10入り(8位)となった。

-(キースの“シングル”としては)不振-

続いたシングルは④「Get Up On It」⑩「When I Give My Love」と、いつもどおりのスロウを展開。フィッツジェラルド・スコットとの共同プロデュースのは、カット・クロースが軸となる旋律を歌いあげるという、次作でも展開されるパターンなのだが、チャートはR&B12位。また、キースらしさ全開のは同38位と、チャートは(キースとしては)不振だった。
 ここで面白いのは、カット・クロースが参加したよりも、のほうが、この2年後に大ヒットになる「Twisted」につながっているという点ではないだろうか。アシーナ(Athna Cage)の声が聴けるのほうが近いという方もいらっしゃるだろうが、個人的に音作りとしてはのほうが近く感じている。[*1]

-安定の世界観-

いつもどおりのスロウは、なんといってもロジャー(Roger Troutman)参加の⑪「Put Your Lovin' Through The Test」が白眉である。ロジャーのトークボックスが全体に張り巡らされ、独特な甘美の世界が楽しめる。これに応えるように歌うキースとの掛け合いがキキドコロである。
 ほかにも80年代後半の風情を残しながらも決して古くないミディアム・スロウの③「It Gets Better」や、タイトル通り電話でのやりとりの⑫「Telephone Love」[*2]をイントロ代わりにした⑬「Come Into My Bedroom」、ニュージャック・スロウの理論を当てはめた⑭「For You (You Got Everything)」など、当然のように佳曲が目白押しである。

-前作同様-

次作のセルフ・タイトル作の完成度が高すぎて、どうしても地味に感じる作品なのかもしれない。世間的にも前作『Keep It Comin'』と今作の評価はイマイチのようである。しかし、前作同様、聴きこめば聴き込むほど味は出る。キースの作品は奥が深いのである。

(2021.06.08)

[*1]④「Get Up On It」については、どちらかというとチェンジング・フェイセス(Changing Faces)を彷彿させてくれる。ただし、こちらのほうが「Stroke You Up」の発売よりも1カ月ほど早い。R・ケリー(R.Kelly)とキースの世界観はやはり近い。
[*2]この楽曲でも自身の1stから「Right And A Wrong Way」を挟み込んでいる。2作連続で使ってくるとは、キースの想い入れも相当深いものと推察できる。

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