1. 『Dress To Impress』
  2. KEITH SWEAT
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『Dress To Impress』(2016)2016
ridin_solo

Review

-名盤誕生-

さて…。どの楽曲をベストとしたら良いのだ…。顔がニヤけたまま贅沢な悩みが誕生した。聴き終えて、まず最初に思ったことである。全体的にキース特有のエロさ加減は減少。これは筆者としては由々しきことに違いないはずなのに、心から愉しめる66分であった。
 どれもこれも、良い。キープ・コンセプト。そうありながらも、各曲ごとに輪郭は濃く、はっきりしている。なのに優しさで満ちあふれている。

-70年代フレイヴァー-

チャカポコギター使いの①「Good Love」から始まる。キースが走ってきた80年代後半より以前、70年代の風味をまとったミディアムは聴きやすく、R&Bエアプレイチャートを制覇と反応も上々。アルバムへの期待感を大きく高めてくれた。

続く②「Tonight」シルク(Silk)[*1]をフィーチャリングした、さらにチャーリー・ウィルソン(Charlie Wilson)もソングライティングに参加したことで話題を呼んだスロウ。サビの呼吸の置き方はきっとチャーリーによるものだろうと思われるスタッカート使い、そして中盤にシルクが優しくコーラスするところなど、キキドコロは満載である。
 「Make It Last Forever」の再来と言える③「Just The 2 of Us」は、タキヤ・メイソン(Takiya Mason)というシンガーとのデュエット。彼女の声は線が細いが、この楽曲にはこのくらいのほうがちょうど良い。シングルカットされ、上記チャート10位を記録した。
 この2曲を手がけたのは、ワーリー・モリス(Wirlie Morris)。『Just Me』以降のキースの作品に関わっており、こちらも名作『Ridin' Solo』でも半分程度の楽曲を手がけていたおなじみの人物である。さすが気心がしれた仲とでもいおうか、キースがやりたいことをきちんと咀嚼し、形にしていることがよくわかる。今回の70年代フレイヴァーの再現は、彼の力も大きく関与していると思う。ちなみに上記以外にも、唯一のアップである⑦「Give You All of Me」⑪「Better Love」を共作している。

-安定のフィーチャリング・アーティスト-

ゲストを迎えたのは⑧「Missing You Like Crazy」『Get Up On It』依頼の参加となるジェリー・フラワーズ(Jerry Flowers)が手がけた、甘い甘い楽曲である。この古き良きコーラスをドゥルー・ヒル(Dru Hill)が担当するとはなんたる贅沢!“I Miss You,Girl”なんてフレーズを歌われるという、まさにスウィートソウルの果汁が詰め込まれている。

ゲストはもうひとり。トリを飾るのは我らがジェラルド・リヴァート(Gerald Levert)である。前作も「Knew It All Along」でLSGでのパフォーマンスをプレゼントしてくれたわけだが、またしてもストックをドロップしてくれるとは!ジェラルド・アイザック(Gerald Isaac)が手がけたという⑯「Let's Go To Bed」は、まさに鉄壁の布陣!横揺れしたくなるグルーヴありきのスロウは、いままで発表されていなかったことが勿体ないほどの仕上がりである。

-ソウルに合う味付けを知っている-

音数の少ない楽曲を提供しているのは、チャーリー・ウィルソンの『Uncle Charlie』(2009)の頃からグレッグ・パガーニ(Gregg Pagani)らと仕事をしているフランシスカ・リチャード(Francesca “Francci” Richard)ら。80年代風の打ち込み音が中心でありながらもチープにならない④「Pulling Out The One」、どちらもピアノの旋律が美しい⑨「Lovers and Friends」⑭「Say」を共作している。後にキースの次作『Playing For Keeps』のほか、ジョニー・ギル(Johnny Gill)の『Game Changer Ⅱ』(2019)や、ラルフ・トレスバント(Ralph Tresvant)のシングル「All Mine(feat.Johnny Gill)」(2020)にも起用されているとおり、ソウルマンたちのお気に入りとなっていることは間違いない。

-共作ではなく-

また、今回は共作ではなく、キース自身のみのクレジットが目立つ。⑤「Special Night」⑥「Back And Forth」⑫「Dressed To Impress」⑬「Cant' Let You Go」⑮「Get It In」と5曲もあるわけだが、その中でも気になったのは。80年代後半、というよりはギャリー・グレン(Garry Glenn)をオマージュしたとしか思えない楽曲。これを聴いた後にギャリー・グレンの「Feels Good To Feel Good」が聴きたくなる[*2]こと間違いなし!と言い切ってしまいたい。

-キャリア最高峰はどちらなのか…-

まだまだ多く語りたい…。それくらいに充実した作品。2010年代のベストを1枚だけ選ぶ機会があったとして、この作品を挙げてもおそらく後悔しないだろう。セルフタイトル作『Keith Sweat』と双璧をなす名盤である[*3]

(2021.09.27)

[*1]この作品がリリースされた同年に、オリジナルメンバーでのアルバム『Quiet Storm』をリリースしている。2016年は豊作の年だったことがよくわかる。
[*2]ZAN「Want To Be With You」も、とも思うが、この場合は断然「Feels Good To Feel Good」。どちらも本当に名曲です。
[*3]なのに、なぜSpotifyでこの作品だけ聴けないのか。。。そういえば、ギャリー・グレンも聴けない!なんとか解禁お願いします!

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