1. 『Didn't See Me Coming』
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『Didn't See Me Coming』(2000)2000
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Review

-気になる前半-

当然のようにキースは女性との相性が高い。「Make It Last Forever」「Twisted」「Nobody」…これだけ時を越える楽曲を残しているわけで、これに異論を挟む方はいないだろう。本作は、それを意識して?なのか、男女の駆け引きのような歌声が楽しめる…。

とはいえ、後出しジャンケンと言われてしまうかもしれないが、発売当時のBMR誌の“Crytical Eyes”に林剛さんが記述されているとおり、全体的にキメの1曲にかける気もするというのは個人的も同意してしまう。もちろんあくまで“キースの作品だから”ということなのだが、いつも以上にそう感じたのは事実である。数曲手がけたスティーヴ・ハフ(Steve “Stone” Huff)が得意とする緊張感高めの④「Satisfy You」や、当時はデスチャ(Destiny's Child)で大忙しであったろうロドニー・ジャーキンス(Rodney “Darkchild” Jerkins)による⑤「I Put U On」T・ボズ(T-Boz)を迎えた⑥「He Say She Say」も個人的にはそこまで…。正直、前半については、オル・スクール(Ol Skool)ボビー・クロフォード(Bobby Crawford)が関与した③「Whatcha Like」 が気になる程度であった。

-女性陣との相性。その中でも-

ようやく諸手を挙げて迎えられたのは⑦「Real Man」から。新しい才能であったディ・ディ(De De)アンドリュー・レーン(Andrew “DL” Lane)によるこのトラックは、カメール(Karmel)という女声コーラスが入ってくるミディアム。この作品の制作時点では、すでにカット・クロース(Kut Klose)は解散していた[*1]ようであるが、彼女たちと描いてきた世界観に寄り添っている。これを嫌いなキースファンはいないだろう。

また、今回のリード・トラックはリル・モー(Lil' Mo)を迎えた⑭「I'll Trade(A Million Bucks)」。このゴスペル・ライクな楽曲が軸にされていることに、安堵する。ストリート出身とはいえ、ゴスペルへのリスペクトも忘れていない。ジェラルド・レヴァート(Gerald Levert)ケリー・プライス(Kelly Price)と歌った「It Hurts Too Much To Stay」[*2]のようである。ちなみに、ボーナストラックでリミックスが収録されているが、こちらもギターのフックがかっこいい。

これら上記2曲だけでも、女性陣との掛け合いを楽しませてくれる。ここが、キース・クオリティなのではないだろうか。

-男性だけでも頑張っています-

男性陣も負けてはいない。メン・オブ・ヴィジョン(Men Of Vizion)スパンキー(Spanky Williams)ジーン・ピープルズ(Gene Peoples)とプロデュースした⑫「Caught Up」は、妖艶なギターとキースのねちっこいヴォーカルが見事にはまり、深夜に溶け込んでいくようなスロウ[*3]。BPMを落とした流れに脱力させられてしまい、この曲の世界に没頭させてくれる。コーラスもメン・オブ・ヴィジョンが務めあげており、厚い。
 続くスティーブ・ハフの⑬「Games」も、ダウン・ロウに5つ打ちビートが印象的なスロウ。流石R・ケリー(R.Kelly)のミュージック・ディレクターをやっていた!という印象を深めてくれるものである。
 デイヴ・ホリスター(David Hollister)との⑩「Don't Have Me」は、キースの羊声とデイヴのバリトンがしっかりと融合。デイヴの「One Woman Man」前夜に、こんなに渋いトラックを歌っていたのである。この曲も、を手がけた新鋭のディ・ディとアンドリュー・レーン。デイヴの作品もキースの作品もしっかりと聴き込んできていることがはっきりとわかる。

-商業的にもふるわず-

チャートアクションは、キースにしては振るわず、R&Bチャートですら最高5位。ゴールド(50万枚)止まりであった。シングルも、がR&B36位。キースらしさがつまったですらR&B73位…。ベテラン勢には厳しい風が吹き始めたのであった。

(2021.07.22)

[*1]『bmr』2001.01(No.269)インタビューより
[*2]ジェラルド・レヴァート(Gerald Levert)『G』収録。こちらの曲の方が、もっとゴスペルよりなのは明らかですが…。同じ2000年にリリースされているところが興味深い。
[*3]詞の内容は、男女間の辛い話のよう。とてもベッド・サイドには似合わない。

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