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『Joe Public』(1992)1992

Review

-頂点からのスタート-

バイオグラフィーで触れたとおり、いきなりキース・スウェット(Keith Sweat)「Keep It Comin'」がチャート制覇。頂点からの出発になった。当時の彼らのプレッシャーは計り知れない。しかも、その半年後のリリース。これは外すわけにはいかない。
 そのプレッシャーも吹き飛ばしたのはリード・シングルとなった①「Live And Learn」である。R&Bチャート3位の大ヒットとなり、メンバーもほっとしたのではないだろうか。

-実績と実力の交差点-

彼らを手がけたのはライオネル・ジョブ(Rionel Job)。80年代を駆け抜けたファンク・バンドであるスター・ポイント(Starpoint)を長きにわたり手がけていた人物である。ファンクの中にも美しいメロディ、そして時代に柔軟に対応していったそのスタイルは、このライオネルの仕事によるものだったようである[*1]。そのライオネルがニュージャックに対応する姿を見せる媒体となったのがこのジョー・パブリックであった。実績のあるライオネルと実力のあるメンバーたちの音のタッグがこの作品になった。

-だけじゃない、その内容-

アルバムは冒頭の大ヒット作から始まる。いわゆるニュージャックスウィング。②「I've Been Watchin'」④「I Gonna Thang」⑨「Do You Everynite」も同様の作風である。もちろんそれぞれに“それだけじゃない”エッセンスを加えているのだが、これらばかり並べられていたら、長く聴ける作品にならなかっただろう。

しかし、セルフ・コンテインド・グループである彼らは、当然それ以上のものを用意していた。ニュージャックだけのグループではないことをきちんと表現していた。

まずは、後にシングルカットされる③「I Miss You」のようなスロウである。この楽曲もニュージャックを抜けきっているわけではないが、Bメロの半音下がるところなどの切ない仕掛けに心を奪われる。また、イントロからギャリー・グレン(Garry Glenn)の「Feels Good To Feel Good」を思い出させてくれる⑩「When I Look In Your Eyes」は、80年代に引き戻されつつも、その良い部分を切り出した佳曲である。このあたりの表現は、ライオネルのセンスではないだろうか。

ミディアムの⑤「Anything」で見せるライトな雰囲気、⑧「Touch You」でのチャカポコギターと開放感のあるコーラスは、ニュージャックでもコーラスグループでもない方向性を示している。密室でも無く、ストリートでもないこの雰囲気は、(好みは分かれるだろうが)他のグループには無いものではないだろうか。

-ヴォーカルに特徴があれば-

セルフ・コンテインド・グループであるため、仕方ないといえるのだが、残念なのはウタヂカラがなかったことである。例えばトニーズ(Tony Toni Tone)ラファエル(Raphael Saadiq)ミント・コンディション(Mint Condition)ストークリー(Stokley Williams)のように、甘いナヨ声のヴォーカリストがいれば、また状況は変わっていたのかも知れない。奇しくも前出の「Keep It Comin'」でそのケミストリーは証明されている。グループ解散後にタイリース(Tyrese)に楽曲を提供するほどの実力者揃いだっただけに、非常に惜しいと感じた。

(2021.05.26)

[*1]参考:JAM著「Lionel Job & Starpoint Ⅰ・Ⅱ」『Chasin' the 80's Classics』(2017年)株式会社スペースシャワーネットワーク

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