1. 『Angela Winbush』
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『Angela Winbush』(1994)1994
the real thing

Review

-最高のタイミング-

デュオ時代からその才能を見せ続けたアンジェラであるが、その集大成とも言うべき作品。セルフタイトルを冠したアルバムは、アイズレーズ(The Isley Brothers)の傑作2枚〔『Tracks Of Life』(1993)、『Mission To Please』(1996)〕に挟まれる最高のタイミングでのリリースとなった。彼女のセンスが溢れ出している。

-センスと経験と-

そのセンスも、今まで培ってきた経験値と重ね合うことで、さらに高みのある表現を見せている。デュオの頃から見せていたファンクネスとメロウネスの双方を取り入れたギリギリのバランスに加え、哀愁のスパイスをふりかけているのが⑨「Sensitive Heart」である。強めのビートに強い意志を感じながらも、アーニー(Ernie Isley)の伸びやかなギターが泣き始めると、その決心が揺らいでしまいそうな切なさを感じ、人間の持つ表裏一体の感情に温かみを覚えてしまった。ロナルド(Ronal Isley)をサビの部分だけコーラスに入ってもらうというゴージャスなつくりは、公私ともパートナーだったアンジェラにしかできない芸当である。

-サポートする面々と、その必要性-

先行シングルは①「Treat U Rite」チャッキー・ブッカー(Chuckii Booker)がすべてのプログラミングを担当した深みのある重ためのファンク。チャッキーらしい横揺れできるリズム感で、ニュージャックを消化した後の音作りであることが確認できる。R&Bチャートは6位を記録。結果も伴うところは流石。面目躍如といったところか。
 同じ雰囲気のままマーヴィン(Marvin Gaye)のカヴァ②「Inner City Blues」へ突入。ネーザン・イースト(Nathan East)がメロディックなベースを弾き、セコウ・バンチ(Sekou Bunch)がドラムを、ジェラルド・アルブライト(Gerald Albright)がサックスを吹くというジャズよりな編成にも、あくまで主役はアンジェラ。もちろんマーヴィンのカヴァということが大きいわけだが、きちんとブラック[*1]である。
 それにしてもジェラルド・アルブライトは、前作でも記しているが、陰の立役者であろう。“誰が吹いても同じ音色”ではなく、ここでは完全にジェラルドを求められていることがよくわかる。特にそれを感じるのはスロウの⑧「Hot Summer Love」。世界観は80年代中期。そのアーバンな場面には当然のように後半のブリッジにソロが登場する訳だが、そこよりも最後にアンジェラが「Summer Love~」と連呼の後に、シック(Chic)「Good Times」の節を回し、最後に「Summer Love!」ともう一度叫ぶところに、同じメロディをジェラルドがなぞる部分ではないだろうか。ボーカルと同じメロディをサックスが吹くということは少ないし、やったとしてもかっこ悪くなってしまいそうだが、ここではジェラルドも一緒に歌っているようでならない。歌うようなサックスは、やはりこの人が最高なのではないだろうか。

-ロナルドとのデュエットもよいが-

スロウでは今回もおなじみロナルドとの⑤「Baby Hold On」を収録。前年に結婚している2人が歌っていることもあり、どちらかというとスタンダードに近いまっすぐなバラ―ドになっている。
 それよりもアンジェラの才覚を感じるのは③「Keep Turnin' Me On」。一聴してわかるアンジェラらしいメロディラインは、デュオ時代を彷彿とさせる音作りである。しかしそれはきちんとアップデートされており、決して古くは感じさせない。この感覚がリネイ(René Moore)にはできず、アンジェラにできたことなのではないだろうか。

-乗り越えて欲しい試練。応援してます-

2021年現在、アンジェラのソロ作はこの名盤が最新作である。ロナルドと離婚後に乳がんを煩い、復帰を目指すも心の病と、とにかく苦労されているようだ。なんとかもう一度、才能溢れる彼女の作品を聴いてみたいものである。

(2021.10.30)

[*1]ジャズよりといえども、ここに集う全員はブラック・フィーリング溢れるメンバー。ジョージ・デューク(George Duke)の名前も確認できるわけだが、彼らの名前をみればとても安心できる。それだけすごいサポートメンバーを集められるアンジェラは、やはり大物である。

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