-完成度の高い1stという高いハードル-
才女。1st『Pronounced Jah-Nay』で見せた世界観、アートワーク。近寄りがたい適度な神秘感を漂わせる彼女たちは、只者ではないと思っていた。「Hey Mr.D.J.」が大ヒットし、表舞台に登場するわけだが、実は筆者は「Groove Thang」から。楽曲単位では“UKのデュオ?”と大きな勘違い。アルバムを聴いて、自分が予想していた守備範囲をはるかに超えていることに驚いたのを覚えている。そんな傑作を経ての2nd。非常にハードルがあがってしまうのだが…。
-ケイ・ジーとの相性-
前作はほぼ、ノーティ・バイ・ネイチャー(Naughty By Nature)のケイ・ジー(Kay Gee)がプロデュースしていたわけだが、ケイ・ジー以外とも組んでみたいという彼女たちの希望が採用された形となった。
とはいえ、やはりケイ・ジーのノーティ一派が多く手掛けている。「Hey Mr.D.J.」の“二匹目のドジョウ”を狙った感のある①「Request Line」や、ベース音や鍵盤の音色がミシェル・ンデゲオチェロ(Me’shell Ndegéocello)的な⑦「Last Dance」は彼らにとってはお手の物。特に①ではアシュフォード&シンプソン(Ashford & Simpson)「It Seems To Hang On」をサンプリング。この選曲だけでも満足させられてしまいそうである。
また、前作同様、彼女たちのジャズ趣味を露わにしているのは③「So Badd」やシック(Chic)のカヴァ⑧「Good Times」。⑧などは意外な気もするが、この2曲で起用している2人のギタリストはジャズ畑の出自。③のノーマン・ブラウン(Norman Brown)と⑧のマイク・キャンベル(Mike Campbell)は、ともにリード作もリリースしている実力者である。
ヒットした④「Crush」は、筆者的には“夏”を感じる爽やかな楽曲。前作収録の「Sweet Taste Of Love」と続けて聴きたくなってしまう。
以上はすべてケイ・ジーや、まだ下積み時代のダレン・ライティ(Darren Lighty=ジャヒーム(Jaheim)、ドネル・ジョーンズ(Donell Jones)、ネクスト(Next)らに功績)らによる楽曲。相性は言うまでもないが、抜群である。
-しかしながら白眉は…-
上記のようなことを書きつつも、筆者がじわじわと好きになったのは⑥「Just Like That」。アンタッチャブルズ(Untouchables)のエディ・F(Edward “Eddie F.”Ferrell)によるミディアム・ファンクである。淡々と進める中に、コーラスを絡める。ブラウンストーン(Brownstone)が得意とする切ない景色を連想させられる。エディが手掛けたのはこの1曲だけというのが非常に残念である。
スロウではレックス・ライドアウト(Rex Rideout=レディシィ(Ledesi)、モティーフ(Motif)、トシ・クボタ(Toshi Kubota)ら)の名前もちらつく⑯「Piece It Together」が面白い。ナジー(Najee)のフルートで幕が開けると、なんとなく“ルパン三世”を連想してしまうのは、筆者の年齢によるものなのだろうか。砂漠の絵が頭を巡る。この異国情緒溢れる佇まいは、ルネー・ヌーヴィル(Renée Neufville)が持つオルタナティブな雰囲気そのものではないだろうか。途中からウィル・ダウニング(Will Downing)が顔を出すのだが、あくまで引き立て役に徹する。このあたりはさすが。ここでは主役にはならないところが嬉しい。
-本人たちの楽曲-
ジーン(Jean Norris)は前作では楽曲を手掛けることが少なかったが、今回は3曲を提供。どちらかというとわかりやすいメロディラインを書く彼女の真骨頂は⑮「Color」であろう。シンプルなスロウは、ひねりはないがしっとりと聴かせてくれる。
逆にひねりを感じる、(良い意味での)ひと癖ある楽曲を書くのがルネー。前出の⑯以外にも、⑪「My Word Is Bond」⑫「Kindness For Granted」を書いているが、やはり独特の世界観。非常にアーティスティックな楽曲が彼女らしく、頼もしい。
-不仲だったのだろうか-
この作品でも、2人での共同作業で生まれた、というような楽曲はない。その結果、解散。さらにジーンははっきりと“再結成はない”と語っている。非常に残念である。個人的には、女性デュオとしてはチェンジング・フェイシズ(Changing Faces)やサ・デュース(Sa Deuce)らを抑えても、最高峰と思っているだけに、2人でのコーラス・ワークが再現されることを願ってならない。
(2015.07.26)