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『What We're All About』(1994)1994
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Review

-残念なジャケット…でも歌えそう!と思わせてくれる-

印南さんの『Juicy2』で紹介されている本作だが、そこに記しているジャケットについての感想のとおり、おおよそ94年の作品とは思えないほどお金をかけなかったであろう仕上がり…。確かに一般の人には購買欲は沸かないパッケージだろう。しかし、ソウルディガーたちには(逆に)期待できるのでは!?と思わせてくれるという、なんとも表裏一体の物語である。

-支えるプロデューサー陣-

そんなジャケットは、後者に軍配とでも言おうか。中身はしっかりとしている。その理由は、裏方で支えているベテランたちによるところが多い。
 本作は、おおよそ3パターンの陣容で作られている。それぞれ、ハーシェル・ブーン(Herschel Boone)デヴィッド・マクマレイ(David McMurray)メルヴ・デ・ペイアー(Merv De Peyer)が中心となって手がけたプロダクションである。

-ハーシェル・ブーン-

ハーシェル・ブーンは、デトロイト(Detroyt)のメンバー[*1]。デトロイトは兄妹4人によるグループで、1984年にタブー(Tabu Records)からデビュー。結局セルフ・タイトルの1作目を残しただけとなっているが、AOR方面からも人気の1枚となっている。その後、ハーシェルはアーロン・ホール(Aaron Hall)キース・ワシントン(Keith Washington)らを手がけている。
 そんな彼が手がけたのは、①「What We're All About」②「This Love」⑧「You Came My Way」。共同で作業をすることが多かったラヴェル・ムーレー(Lovell Moorer Ⅲ)と共作[*2]している。このなかでは、スロウのが秀逸。打ち込みのベースラインで躍る80年代風のクワイエットな雰囲気に、サビではコーラスグループを活かした4人の声がふわっと乗り込んでくるあたりが心地よい。ただ、94年の作風とは思えない訳だが…。

-デヴィッド・マクマレイ-

続いては、デヴィッド・マクマレイである。1958年生まれ、デトロイト出身のサクソフォニスト[*3]であり、これまでに10枚のソロ作をリリースしている。ジャズ・ミュージシャンでありながらも、ミリー・スコット(Millie Scott)ルイス・プライス(Louis Price)ヴェスタ(Vesta Williams)などをプロデュース。80年代から最近まで様々なアーティストの作品に参加している。
 本作では、3人のなかで最も多い5曲を担当。スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)のカヴァである③「Tell Me Somethin' Good」の他、④「Strength Of My Love」⑤「Can't Nobody」⑦「For Your Love」⑨「Ya Turn Me On」を手がけている(④⑦には、ハーシェル・ブーンも参加)。このなかではを取り上げたい。シャニース(Shanice Wilson)のようなかわいいミディアムに仕上がっていて、いかにもヒットを狙ったようなポップな楽曲である。本作から、どの曲がシングルになったのかがわからなかったのだが、選ぶならこの曲で間違いないだろう。ただ、これも94年感はあまりないのだが…。

-メルヴ・デ・ペイアー-

最後は、メルヴ・デ・ペイアーである。18歳までイギリスで暮らし、バークリー音楽大学(Berklee College of Music)へ入学するためアメリカへ。その後、キャミオ(Camio)と活動していた。キャミオの88年作『Machismo』では、憧れのマイルス・デイヴィス(Miles Davis)を招いた「In The Night」をラリー・ブラックモン(Larry Blackmon)と共作。このことは、彼自身のWebサイトで人生のハイライトのように綴られている。現在はイギリスへ戻り、ピアニストとして活動。自室での弾き語りなどの動画をアップしている。
 本作でメルヴが手がけたのは⑥「Satisfied」⑩「Not Gonna Take」⑪「On My Mind」であるが、この作品で何度も繰り返し聴いたのはである。これは、共作者であるキース・モルトリー(Keith Moultrie)と、メンバーであるアンジェラ(Angela Hill)とのデュエット[*3]であるのだが、アンジェラのノビのあるきれいな声と、キースのテナーヴォイスのバランスが楽しめる。本作のなかでは群を抜いてアダルトな仕上がりで、筆者としてはこれをベストとしたい。ちなみにキースは、エクセレンス(X-Cellence)[*4]というグループに所属していたという実力者である。

-ひとりはみんなのために…-

それぞれのプロデューサー陣が、アップ、ミディアム、スロウと提供しており、しかも前出のとおり、ハーシェルはデヴィッドと動いたり、メルヴはXLのメンバーと共作したりと、それぞれが溶け合ってプロデュースしているように感じる。そのために、だれかのプロデュース作が目立つわけでは無く、それぞれの楽曲がアルバムを構成するために作られているという、本来のあるべき姿になっているところが嬉しい。改めて“アルバム”の意義を思い出させてもらった気がする。

(2022.05.05)

[*1]メンバー(兄弟)のひとり、カーティス・ブーン(Curtiss Boone)は、グループでの活動ののち、マイケル・J・パウエル(Michael J. Powell)の下で活動。ジェラルド・アルストン(Gerald Alston)やL・J・レイノルズ(L.J. Reynolds)らを支えている。
[*2]このふたりは、本作リリースの翌年(1995)に、フォー・エグザンプル(Ⅳ Xample)の全米チャート44位を記録したヒット作「I'd Rather Be Alone」を手がけている。
[*3]本作でも⑤のブリッジ部分や、⑦でファンキーなサックスを聴かせてくれる。
[*4]ジャケットをくまなく探したが、誰が歌っているのかという記述は無かった。但し、ヴォーカル・アレンジメントに2人の名前が記述されていることから、ほぼ間違いないと思われる。キースについては、歌声から確定的である。
[*5]ワシントンD.C.出身の4人組。1993年にシングル「Baby Don't Rush」というミディアムでデビューし、EPのリリースも予定されていたがお蔵入り。プロモーション用のカセット・テープが出回っている様子。シングルが良かっただけに、もったいない…。いったいアメリカにはどれほどのお蔵入り作品があるのだろうか...。

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