-勝手なキャッチ・フレーズ-
個人的な感想とはいえ、多くの共感を得られそうな思い付きキャッチ・フレーズ。
“トニーズ(Tony Toni Toné)のお気に入り”
ともすれば、彼らに気に入られているから簡単にデビューしたように感じてしまうわけだが、いやいやなかなか下積みされたようである。トニーズのオープニング・アクトをこなして約10年。実力が伴わなければ、こんなに長くはやれないだろう。
そんな彼女たち三姉妹のデビュー作である。
-ラファエルも数曲のみ参加-
上記のことを鑑みれば、おそらくトニーズ人脈で埋め尽くされているのだろうと想像していた。しかし、ラファエル(Raphael Saadiq)が3曲(③「Can’t Get Enough」に参加。④「Bona Fide」⑤「Never Comin’ Back」を提供。)に関与したのみ。ミディアムのタイトル作④は、ソフトタッチの彼女たちのコーラスを活かすかのようなシンプルな音作り。そこにひとひねり加えたような彼らしさが垣間見える。また、⑤はトニーズでも見られる南部好きの一面を覗かせる。
これら2曲を聴いたら、又はラファエル印の少ないクレジットを確認すると、多くのソウル・ファンが、その数の少なさに肩を落としたのではないだろうか。
-支えたのは-
その不安感を拭い去るべく、ほぼ全曲に関与しているのがレイサン(Lathun Grady)[1]である。他にも楽曲提供者はいる[2]のだが、彼はほとんどが彼女たちと共作になっており、アーティストを前面に押し出してくれている。その謙虚さ加減が心を打たれる。
話題は日本語表記だと思われる⑨「Sukie Sukie」だろう。確かに彼女たちの淡白な歌声はヒップホップよりな楽曲に似合うかもしれない。しかし筆者はそれほど…。むしろそれをとらえるとすれば⑦「Color Me You」ではないだろうか。“ドドッ、ドドッ”というバスドラの音がシンプルにピアノと絡み、ゆっくり訴えてくる感情。歌い倒さない彼女たちにしっくり馴染んでいる。また、⑥「Duddy」ではトライブ・コールド・クエスト(A Tribe Called Quest)の「Hot Sex」をサンプリング。人脈から、これはラファエルの指示?と勘ぐってしまいたくなるが、これも彼女たちにははまっていると思う。やはりそういう方向を目指す指示がでていたのだろうか。
-優等生的な方向性もきちんと-
逆にオーソドックスなスタイルで歌うのは⑩「Always」。確かに彼女たちが歌わなくてもと言われそうだが、このあたりのわかりやすい楽曲もそつなくこなしている。同系列ではあるのだが⑫「Just Believe」はクロージングに持って来いの穏やかでありながら、芯の強さの中にある切なさを感じる。最後のコーラスがもっと繰り返してほしいのは、濃いもの大好きな筆者の偏った感想といえるのかもしれない。
-器用貧乏なのか-
どちらにも動けますという彼女たちの器用さを引き出したと思われるのだが、それが故に核となる一曲がなく、個々によってお気に入りがばらけてしまった印象。こうなるとなかなかインパクトは足りなかったのかもしれない 。
(2015.06.30)
[1] 2002年にソロ作『Fortunate』をリリースしている。
[2]クリス・ヘンダーソン(Chris Henderson):ケイス(Case)の代表曲
「Happily Ever After」を共作。ほか数名参加。