-自分たち自身を表現するために-
マクファデン & ホワイトヘッド(McFadden & Whitehead)といえば、フィラデルフィアの英雄。そのホワイトヘッドの息子たちと聞いただけで穿った目でみてしまう。“父親の七光りで出てきたんだろう”と。
彼ら自身もそう見られてしまうことは百も承知だろう。“そう思っている奴らを見返すんだ”と考えるに違いない。本作品の8年も前にリリースされた際は。まだ幼かったこともありそのあたりの自己表現はできなかったはず。父親と同じくフィリー産だったことを考えると、それは容易に想像できる。ならば、この2ndが本当の意味でのデビュー作といえるのではないだろうか。
-意気込みを感じる-
その意気込みは、ケニ―・ホワイトヘッド(Kenny Whitehead)自身がほとんどの楽曲を制作していることから窺える。また、①「Forget I Was A 'G'」を聴いてすぐにわかる、父親世代では表現することがなかったヒップホップへの接近も“オレたちはただの2世じゃないぜ”とでも言っているように感じてしまう。
-自然に乗りこなしている-
無理にストリート感を漂わせているわけではない。このあたりはプロデューサーのラリー・ゴールド(Larry Gold)[1]のバランス感覚なのかもしれないが、ケリーたちも単純にヒップホップの影響を受けているから乗りこなせているのだろう。ヒットしたミディアムの②「Your Love Is A 187」には、ドクター・ドレ(Dr.Dre)がスヌープドッグ(Snoop Dogg)をフィーチャーした「Fuck Wit Dre Day」をサンプリングしているのだが、これを見事に自分たちのものにし、しっかりとR&Bに仕上げている。チャート的にもR&Bチャート15位という成績も残した。
-これらの楽曲が指示された時流-
そんなGファンクスタイルが続く中、インタールードの⑧「Where Ya At? (Interlude)」を挟んで後半戦が始まる。ここから始まるのはスロウ。リプライズとしてエンディングに配したことを鑑みると、後半の軸としたかったのは⑩「Beautiful Black Princess」ということになるだろう。音数の少ないシンプルな構成のなかに、(ニュージャック的な)繰り返すコーラスと、(フィリーソウルのような)ストリングスが絡まるところに“自分たちの世界と尊敬する父親の世界“が邂逅を果たした気がした。
タイトルもそのままな⑪「Sex On The Beach」は、まるで初期R.ケリー(R.Kelly)。リリース年(1994)を考えると、『12 Play』になってしまっても仕方のないことなのだろうと妙に納得させられてしまう。続く⑫「Turn U Out」もイントロの男女の語り、ブリッジ部分の喘ぎ声と必要なパーツをそろえた同様の世界観。⑭「Love Goes On」もメロディは昔ながらの優等生でありながらも、味付けた音がセクシーな世界へいざなってくれる…。
これらの楽曲は、スネアの音からも時流を感じ取ることができ、改めてこの時代の良さに想いを膨らませてしまうのである。
-時代感はあるものの-
聴いていて、どこか懐かしささえ感じるわけだが、決して古くて聴けない!とはならない。今だったらこの音なのだろうという部分があるにしても、充分に楽しめる。そういった“入り込みやすい隙”が、時代とともに熟成し、良い味になっている。
(2017.03.12)
[1]60年代から活躍しているベテランだが、名が売れたのは本作品から。ブランディ(Brandy)&モニカ(Monica)の「The Boy Is Mind」[1998]ではストリングス・アレンジを手掛けた。