1. 『New Beginning』
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『ChapterⅢ:The Flesh』(2005)2005
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Review

-濃厚-

彼女の歌声はケリー・プライス(Kelly Price)のそれよりもディープではない。なのにディープに感じてしまう。それはマーケットを意識しない作品を創り続けるからなのではないだろうか。彼女自身は「正しく評価されていない!」と昔から嘆いているわけだが…。今回もその濃厚な作品を届けてくれた。

-豪華-

カニエ(Kanye West)の作品で表舞台に登場した直後の作品ということも手伝って、今回の参加メンバーは豪華。制作陣にカニエはもちろん、おなじみR.ケリー(R.Kelly)ジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)ケイジー(Kaygee Gist:Naughty By Nature)ら。そしてゲストにコモン(Common)アンソニー・ハミルトン(Anthony Hamilton)と、音を聴く前から期待させられる。しかし、その高いハードルも軽々越えてくれる楽曲が揃っている。

-ゲストは適任-

シングルとなった②「Hypnotic」はR.ケリーがやるヒップホップトラックで、筆者としては…。それよりも④「Special Occasion」だろう。得意のシカゴ・ステッパーがたまらないメロウ・グルーヴ。もともとR氏の「Happy People」用に作られたものだったものを、デュエットにアレンジし、提供したそうである(実際曲の最後に“Happy People”とつぶやいている)。レコーディングはかなり厳しかったようで、「100回は歌ったけどね。最低4時間はかかったわ。私は普段レコーディングにそんなに時間をかけないの。だけどまぁ、いい経験だわ。」(『BMR』2005.11 No.327)と言っている。

これに続く⑤「More」はアンソニー・ハミルトンとのデュエット。70年代の誇りっぽさを残した楽曲に、アンソニーの深い歌声があまりにもはまりすぎる。しかし、本当はジャヒーム(Jaheim)とやることになっていた(=ケイジー繋がり?)というから面白い。アンソニーと同系といえる声を持つジャヒーム版も聴いてみたいものだ。

その70年代風という意味では、⑥「Bull's-Eye(SUDDENLY)」ではブルー・マジック(Blue Magic)の「Sideshow」を、⑦「Classic Love Song」ではマンハッタンズ(The Manhattans)の「There's No Me Without You」をサンプリングしており、レイドバック感を継続。はコモンのラップを取り入れ“現在”を意識させてくれる。(この日にカニエの「All Falls Down」もレコーディングしたらしい)タイトルそのままのはジャーメイン・デュプリが演出。このあたりは流石!と言える。

-タイトルの意味合いを考える-

アルバムタイトルになった“The Flesh(肉体)”には“Body”と異なり、“性的な”意味合いも存在する。それを表現したかのような⑧「Phone Sex」ではR氏とは異なる官能の世界が広がる。彼女の歌い方もセクシーというより、もはやエロすぎる(良い意味で)。続く⑨「Slowly」では、まるでの行為が終わった後のようなゆっくりとした時間が流れている(とはいえ歌詞は、情事を思い出しているものなんだけど…)。

-白眉-

ティーナ・マリー(Teena Marie)の「Young Love」をサンプリングした一転して明るい⑩「Time」を挟み、この作品中の出色の出来である⑪「Still Open」へ。サンプリングしているのはジャズ・ギタリスト、ロドニー・ジョーンズ(Rodney Jones)の「I'll Always Be With You」であるが、まずこの選曲が唸らせる。原曲よりも情感たっぷりに、スロウに爪弾くギターの入りから、切なさを演出。「私は両手を広げて待っている」という女性の気持ちをヴォーカルで表現している。彼女のこの技術は一級品といえるだろう。これら(⑧⑨⑪)を手がけたのはフィリーでミュージック・ソウルチャイルド(Musiqsoulchild)ジル・スコット(Jill Scott)を手がけたのキース・ペルツァー(Keith Pelzer)&ダレン・ヘンソン(Darren “Limitless” Henson)。この作品では名のあるプロデューサーが起用されているが、彼らこそがこの作品の核となっている。

-父親の影響?-

⑫「Another Relationship」からは地味ながら彼女のソウルを感じられるややディープなミディアムが続く。今までの彼女の得意とする部分であり、このあたりが父親(シル・ジョンソン:Syl Johnson)の影響なのだろう。安心して聴くことができる。

-サンプリングも良いけど…-

全体を通して本当に捨て曲なし。良く出来た作品でいつまでも聴いていられる。しかしそれにしてもサンプリングが多すぎる。決してサンプリングを否定するつもりもないし、むしろ歓迎したい派なのだが、これだけ多すぎると“ズルイ”と言ってしまいたくなる。彼女の力なら、それに頼らずとも良作を届けてくれるハズだ。

前出の通り、彼女は正当な評価を期待している。5thのタイトルなんて「不当評価」。なにをいわんや、である。チャートに結びつけるためには、時に自分の方向性と異なることを行う必要があるだろう。そういった楽曲作りを行わず、シリーナがR&Bチャートを征する日を待ちたい。

(2012.07.29)

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