-ウタモノでグイグイおしてくるのか!?-
オハイオ産のカルテット、と聴けば、“ウタヂカラでグイグイ迫りくる楽曲を中心に”なのではないか?と勝手に理解してしまっている。無論この作品もそういった佇まいなのだろうと…。
この筆者の勝手な予想とは裏腹に、しっかりと時流を意識しつつ、バラエティに富んだ作風になっている。
-様々な作風-
ほとんどの楽曲はメンバーのジェフリー“ジェフ・タイト”ロバーソン(Jefffrey“Jeff Tight”Roberson)によるもの。このグループがいかに彼が中心だったかということがよくわかる。
アルバムに先立ってリリースしたシングルは④「Push’em Up」。ラップから始まるアップではマーケットを意識したかのようなヒップホップ感、ギャングスタ感も味わえる。暑苦しく迫る。
アルバム・リリース後にカットされたのは⑤「Everybody On the Floor (Keep Dancing)」。タイトル通りのダンス・チューンはメロディ・ラインも整っていて、日本人好みな楽曲ではないだろうか。これはUKのアーバン・エッセンシャルというチャートで3位を記録するヒットとなった。
⑭「Never Enough」は、セルフタイトルの1st『Smooth Approach』(1996)にも収録。当時シングル・カットもされているにも関わらず、ここに再収録された。よほど彼らの推し曲ということなのだろう。
スロウではスイッチ(Switch)のカヴァ、⑱「I Wanna Be Closer」を歌い上げる。ここは伝統を重んじたコーラスも聴かせてくれる。
-しかし、である。-
上記4曲を挙げたのだが、どれもなかなか良くできていて、聴きやすい。しかし、これがかえって盲点となってしまっている気がする。つまり、アーティスト側がどこに比重を置いているのかが、ぼやけてしまっていると感じてしまう。どの曲も気に入っているのに、である。
-筆者の独断予想ではあるが-
前出の⑱はジャーメイン・ジャクソン(Jarmaine Jackson)作、⑰「On My Mind」ではジャクソン5(Jackson5)「Dancing Machine」をサンプリング…。このことから、ジェフのアイドルはジャクソン・ファミリーだいうことは明白である。それゆえ、メロディの大切さに重点を置いて聴かせたいのではないだろうか。
それを証明するかのように、メンバーもプロダクションにかかわった⑨「Downsize」や、深夜のベッドルームがよく似合う⑪「Don’t Worry」、タイトル通り、誠実に温かく、優しく言葉を重ねていく⑬「Gentle」などのスロウの秀逸なこと!彼らの真骨頂はやはりココではないだろうか。
また、前出のとおり、ミディアムでは⑤が親しみやすい。また、⑦「Get At Me」では、カッティング・ギター風のチープな打ち込み音、語り、バリトンボイスの配置など細かい配慮を散りばめた総合力でカッコ良さを演出しているそのセンスに唸らされた。これはジェフの技術力×メロディラインの美意識によるものだろう。
-もちろん濃厚なわけだけど-
冒頭に記述した“ウタヂカラでグイグイ”というものではなかった。(あくまでオハイオ勢と比較してだが…)歌い上げる、というわけではない。しかし、その分とでも言おうか。ジェフのプロダクション能力の高さが光っている。このセンスをオハイオだけで発揮しているのはもったいないと思うのだが…。
(2015.11.30)