-成熟したニュージャック-
ショーマリのこの1stは、ヒトコトでまとめるなら“成熟したニュー・ジャック・スウィング”ということになるだろう。92年という、ニュージャック後期にリリースされるべくしてドロップされた、見本のような作品である。
-アップ中心-
個人的にこのサイトでいつも記述してしまうのは、”スロウ”について。この作品はほとんどがアップでまとめられているのだが、こういった作品にありがちなのが、“アップはまぁまぁとして、1曲のスロウが際立つ(=だから忘れられない)”というものが多い。しかし、この作品の場合、アップの仕上がりが抜群なのである。
-楽曲を活かしたプロデューサー陣-
その理由はプロデューサー陣の力量によるものが大きい。デビューシングルとなった③「If You Feel The Need」を手がけたのは、3・ボーイズ・フロム・ニューアーク(3 Boyz From Newark)の面々。キャンマ・グリフィン(Kiyamma Griffin)とヴィンセント・ハーバート(Vincent Herbert)を中心に音作りを行っている。跳ねる音も安っぽい物ではなく、しっかりと聞こえるのは、ドラムにアイク・リー(Ike Lee)が入っているからではないだろうか。このあたりがニューアークのメンバーが束になる理由なのではなかろうか[*1]。彼らは他にも、アルバムのフックとなるようなリラックスしたポップスである⑥「Stay」や、ミディアムの⑬「Hurts Me Inside」という、メンバーのクイントン・ラングリー(N'Namdi “Quinton” Langley)が作曲した毛色の違うものを、それぞれに適した形に上手に料理している。
また、前年にガイ(Guy)の「Let's Chill」や、マイケル・ジャクソン(Michael Joseph Jackson)「Remember The Time」をテディ・ライリー(Teddy Riley)と手がけたバーナード・ベル(Bernard Belle)が、②「Are You Ready」と⑨「Give Me Love」をプロデュース。まさにニュージャックな爽快感のあるトラックに仕上げている。
-ラファエルの参加-
上記プロデューサー陣も充分に力量のあるチームなのだが、ネームバリューでいえば、彼らを上回る人物が参加している。それがアーティストとしてトニーズ(Tony Toni Toné)に所属するラファエル(Raphael Saadiq)である。シングルになった⑤「Let It Be Me」は、ギターのカッティングが印象的なミディアム。サックスのソロは、贅沢にもジェラルド・アルブライト(Gerald Albright)が起用されている。ニュージャックが続いた後に⑤、さらに上記の⑥とつながることで、聴き手側にゆとりをもたらしてくれる。
しかし、それよりも印象的なのは⑫「Good Love」ではないだろうか。イントロのギターから、まんまトニーズの93年の名曲「Anniversary」ではないか!サビ前までは、その原型はここに描かれていたのではないかと思えるくらい、同じ構図である。ラファエルがベースを担当しているところに、この楽曲への愛を感じるのは、飛躍しすぎだろうか。
-ただ模倣し、たどるだけではなく-
そしてメンバーも数曲プロデュースまで行っている。その中でも、アルバムのタイトル曲である⑭「Every Day Has A Sun」は、ニュージャックでありながらも、ただ跳ねるだけではなく、コーラスやベースライン、鍵盤の音などを配し、R&Bやポップに近づけるように施すことにより、新しい物を産み出そうとする意欲が感じ取れる。
-掘り下げる方へおすすめしたい-
近年、ブルーノ・マーズ(Bruno Mars)が展開してくれたニュージャックのリヴァイヴァル。それを契機にニュージャックを聴いてみたいという方には、本作を推したい。80年代後半のペラペラ(それはそれで味ですが…)な音ではなく、「Finesse」を好きになった方にも違和感なく入ってくる作品であると断言したい。
(2021.12.28)
[*1]もちろん束にならずとも、例えばヴィンセント・ハーバートの活躍はココで語る程もないほどに輝いている。奥方であるテイマー・ブラクストン(Tamar Braxton)との作品(2nd)で、彼女を大人に見せる仕立てをしているところなんて、センスの塊ではないかと思ってしまった。