-ギターを手にしたアートワーク-
アートワークにギターを抱えている場合、ベクトルがフォーキーな方向に向いてしまう傾向があり、筆者的には苦手な方面へいってしまうことが多い。この『Soul Supreme』もギターを持っているジャケットであるため、正直音を聴くまでかなり疑っていた。
しかし、その謎が解けたのは、彼がアートゥン・ソウル(Art N' Soul)のリードだったということを知ったことだった。トニーズ(Tony Toni Toné)のサポートを受けてリリースした1996年作『Touch Of Soul』の、オークランド・サウンドを思えば、そうなるのも納得[*1]。そして、そのとおりギターの音色が印象的な、生音を重要視した作品を完成させている。
-目標のある作品作り-
アルバム・リリース時のインタビューにおいて、サム本人が「年配にも若者にも指示される音作り」「70年代のスウィートソウル」「ファルセットに注力した作品作り」などのキーワードを挙げているとおり、古き良き物をアップデートさせた感覚を披露してくれている。スタイリスティックス(The Stylistics)のカヴァ⑦「Break Up 2 Make Up」を選曲するあたりは、まさしくそのテーマにピッタリであり、ファルセットの甘さに加えて、やや遅れたような、ディレイな歌い方、そして刻むギターが、この曲を単なるカヴァに終わらせていない。
そして、そのカヴァで単純に当時の世界観に連れて行くわけではなく、そこに至るまでの②「Get Away」からも1曲ずつ楽しませてくれる。まさしくトニーズ的な、ドウェイン(Dwayne Wiggins)が弾きそうなギターと甘くナヨいサムのファルセットが溶け合った②、ラファエル(Raphael Saadiq)と共作した④「Zodiac Sign」もどこか妖艶な危うい感覚を持たせるトニーズらしさが満載、南部の雰囲気を取り入れた明るい⑤「Still Missing U」、どこかのコーラスグループのカヴァではなかろうかと思ってしまう王道のスロウ⑥「This Is Your Song」など、とにかくスウィートソウルを下敷きにした隙のないつくりになっている。
-一瞬、驚くものの-
一瞬動揺しそうなイントロの⑧「1 More Try」も、決して全体の雰囲気を壊してしまうことはなく、急にプリンス(Prince)が入ってきた!というようなミディアム。きっとこういったものも好きだということも伝えたかったのではないだろうか。
むせび泣くような⑩「Take Our Time」も一聴すると70年代から外れるような気もするが、基本的なリズムの運び方は変わらない。ブリッジにラップを挟むところが、ヒップホップ人脈で活躍してきたサムらしさといえる。
そして最後の⑪「Sexy Mama」は、タイトルもサウンドも、モロにトニーズな、ギター(フォーキーまでいかない)ソウルの世界でクローズしていく。
-“シルク・ソニック”な現在なら-
この作品が2008年というタイミングでのリリースであるがゆえ、UKのレコード会社主導になったのだろう。時が違えばもっともっと話題になったことは間違いない。シルク・ソニック(Silk Sonic)が一世を風靡している昨今、この作品を聴き直すタイミングはベストなのではないだろうか。ちなみに日本盤(流石のP-Vineからリリース)には⑦のロング・バージョンである⑫が収録されている。林剛さんの解説も含めて、買うなら絶対に日本盤である。
(2021.11.06)
[*1]アートゥン・ソウルは、ティモシー・ライリー(Timothy Christian Riley)のプロデュースだったが、トニーズのメンバーの影響はもちろん大きく、サム自身もスペシャルサンクスの欄に、ウィギンス兄弟(Dwayne Wiggins,Raphael Saadiq)の名前を連ねている。