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『Sa Deuce』(1996)1996

Review

-アディナ・ハワードのイメージを継承-

バイオグラフィーでも紹介したとおり、新しいレコード会社、メッカ・ドン(Mecca Don)からの新人として登場した彼女たち。ジャケットからも”強い女性“のイメージを連想[*1]させ、アディナ(Adina Howard)と同様に妖艶な雰囲気を醸し出している。これが二人とも17歳というから恐れ入る。サンプリングのクレジットも多く、かなりヒップホップ・オリエンテッドな内容かと予想した。

-誤算-

しかし、それはうれしい誤算であった。サンプリングやループなど、当然ヒップホップ・ソウルしているわけだが、全編通しておおよそミディアム~スロウで固められている。

-ジャネイ・フォロワー?-

イントロこそストリート感を押し出すものの、歌い出すとスムーズな①「Can't Get You Off My Mind」から始まる。ベースの太さとループの頑丈さとは反する透明感のある二人の声がそろう。一聴してジャネイ(ZHANÉ)を思い起こされ、期待感が高まる。
  続く②「Don't Waste My Time」は先行シングルに選ばれていた曲で、ボビー・コールドウェル(Bobby Coldwell)「What You Won't Do For Love」[*2]を大胆にサンプリングしたミディアム。このリフが合わないはずもなく、しなやかに横揺れを楽しめる。
 と同じ路線の③「Just Can't Live Without Your Love」も、まんまジャネイな気がして、もしかしてこのまま全編続くのか??と期待なのか不安なのかわからない感情になってしまった。

-歌に重きを置きたい-

しかし、④「Don't Take Your Love Away」から多少変化が。もっとスロウ中心になっていく。つまり、彼女たちの歌をもっと押し出したいということではないだろうか。このでは、控えめにデバージ「Stay With Me」を、⑤「Go Down」では、バリー・ホワイト(Barry White)「Playing Your Game Baby」を引用。この選曲が物語っているような気がする。また、⑥「Ordinary People」ではマイケル・スピークス(Michael Speaks)をフィーチャリングし、彼のヴォーカルと対峙している。一歩もひかずに掛け合うところが心強い。

-後半が聴き応え充分-

⑦「Born In」からのスロウ群ではさらにその傾向が増していく。⑧「One Man Woman」では彼女たちの高音まで骨太な声を楽しめ、⑨「Body Knockin'」ではタイトル通りのエロ路線。プロデュースを手がけたマイケル・アレン(Michael “Sugar Baby”Allen)[*3]のコーラスも聴くことができる。

-もうヒトリの功労者-

ここまでプロデュースを担当してきたのは前出のマイケル・アレン。ほぼ全編を統一したテイストで仕上げ、彼の手腕によるところが大きいことはよくわかる。しかし、最後の2曲を手がけた(デビュー前の)メリック・ブリット(Melieck Britt)の仕事も光る。
  ⑩「Full Time Lover」は憂鬱な雰囲気の中に湿度を高くした彼女たちのヴォーカルがのり、前半とは違う声を聴ける。⑪「Does She」も今聴くと打ち込みが脆弱な気もするが、それも味として聴くことができるスロウ。少し安く作った感が否めないトラックをメロディの良さで跳躍していく力が宿っている。

-後半が聴き応え充分-

チャートアクションは悪く、R&Bチャート79位まで。確かに目立った楽曲もなく、派手さはない。しかし、こうして25年後でも楽しめる作品こそが“良作”なのではないだろうか。

(2021.02.17)

[*1]アディナ自身がデビュー当時に女性の強さについて語っている。「私はアグレッシヴ。女だって、男と同じくらいにアグレッシヴになれるんだわ」(ライナーノートより)
[*2]説明不要のAORのレジェンドのデビュー作。当時は自分が白人であることを隠すためにイラストのジャケットを使用したという話もある。個人的には高校生の頃にAORにはまっていた、その入り口を提供してくれた人。思い出深いなぁ。
[*3]レコード会社も同系列なこともあり、我らがキース・スウェット大先生の「Twisted (Flavahood Sexual Remix)」を手がけ、ジェラルド・リヴァート御大の作品「Breaking My Heart」ではヴォーカルとして参加している。

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