1. 『Robbie Mychals』
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『Robbie Mychals』(1990)1990

Review

-時代は確実にニュージャック-

本作がリリースされたのは90年の前半。“Black Music Review”誌には同年6月号で紹介されている。この頃には、ガイ(Guy)の異端児ことティミー・ギャトリング(Timmy Gatling)がバブリーなジャケットのソロ作をリリースしたり、トゥループ(Troop)トゥデイ(Today)といったニュージャックを歌うために結成されたといえるようなグループが活躍しており、とにもかくにもニュージャックというような風潮だった。

本作の主役であるロビー・マイカルズも、その流れにのったアッパーなニュージャックを披露。シングルカットされた①「One Mile From Paradise」は、インディ発ながらもR&Bチャート19位を記録。その前のデビュー・シングルだった⑨「Can't Get Enuff Of U」も、前年に大ヒットしたボビー・ブラウン(Bobby Brown)の「Every Little Step」を意識したダンスチューンであった。
 もしもこの2曲しか知らないのであれば、“ロビーも数多くいたニュージャックとともに消えてしまった人ね”と思われてしまうかもしれない。しかし、そこは百戦錬磨のシグマ・サウンド・スタジオ[*1]。それだけの味付けで終わるはずもなかった。

-ソフトになったソウルの時代-

ロビーには、ニュージャック要素だけでなく、歌心が用意されている。それは決して新しいものではなく、80年代後半のアニタ・ベイカー(Anita Baker)のような、ソフトな一面である。それが最も表現されているのはデュエットで、シングルカットもされた③「Do For You Do For Me」。ゴリゴリのソウルファンには怒られそうなポップなメロディと、多少恥ずかしいような歌詞の組み合わせで、とても90年代とは思えない作風[*2]である。デュエットしたのは、元グイン(Guinn)ローリ・フルトン(Lori Fulton)で、そのあたりの人選も含めて80年代を意識させられる。続く④「Holding On To Love」も同様に、イントロから入るアルトサックス、ファルセットのコーラスと、かなりクワイエットな楽曲となっている。
 同様に⑥「How Many Roads」や、日本ではCMタイアップもあった⑧「Stay By My Side」もソフトなスロウ。ここまでそろえてくるのは、むしろニュージャックに対してのアンチテーゼなのか?と深読みしてしまう。いずれにしても、ニュージャックは時代の要請だったわけで、本当はそれだけではないことを伝えたかったのではないだろうか。

-才能をみせた裏方は…-

そんな楽曲群の中で、ニュージャックの変化球を見せてくれているのが②「Call Me」。ミディアムでありながらも、どこか緊張感が途切れないという絶妙なかっこよさが存在している。手がけたのは若き日のフィッツジェラルド・スコット(Fitzgerald Scott)で、このあたりのセンスは流石である。ちなみにフィッツジェラルドは、ロビーのレーベルメイトであったロレンゾ(Lorenzo)の作品でも大活躍している。

-現在だから言えること-

80年代中期以降の、ブラックミュージックが白くなりかけた(調和した??)時期のものからニュージャックまでと、時の移りゆきを感じ取れる作品。どちらかに舵を切れなかったのか、あえてそのようにしたのかは分からないが、これはこれでありかもしれない。それは30年経ったいまだから感じることなのだろう

(2022.06.25)

[*1]1960年代以降のフィリーソウルを支えたスタジオ。ギャンブル&ハフの“フィラデルフィア・インターナショナル・レコード”が同じ建物内に同居している。吉岡先生のサイトに、2010年に火災に見舞われた記事がある。
[*2]決して悪い意味で記述しているわけではなく、一聴すると80年代中盤かと思ってしまう、という意味。

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