-実力派の2組-
90年代のガールズ・グループで実力派だと思うのが4キャスト(4Kast)とブラウンストーン(Brownstone)の2組。後者のリーダーだったニコールが本作の主役である。偶然にも4キャストのシャリッサ(Sharissa)の2nd『Every Beat Of My Heart』の発売が5日違い。ガールズ・グループの2組のリードが、同時期にお互いにソロ作を出せたというところに、2005年はまだ可能な時代だったんだなと改めて感じてしまう。
-インディからのリリースについて-
シャリッサはメジャーからのリリースだったが、このニッキのソロはインディからのリリース。もともとMCAから2003年1月にリリースされる予定だったものが、閉鎖とともにお蔵入りしてしまったそうである。その後権利を自分の物に帰属させ、今回のリリースに至っている。これについてニッキは、
“メジャー・レーベルは、アーティストの自由を奪うようになってしまった。アルバムの制作にも締め切りが設けられ、内容についてもレーベルから指示が入る。昔メジャーにいて、今インディでも活動を続けているアーティストというのは、そういったしがらみを断ち切り、音楽への愛に突き動かされてアルバムを作り続けている人たちだと思うわ”(『bmr』2005.10 No.326)
と語っており、苦労してようやくリリースされたことがわかる。
-看板に偽りなし-
インディからのリリースとはいえ、内容は全く遜色ない。むしろインディだからこそ構成できたといえそうな、ミディアム~スロウが中心で、本物のソウルが凝縮されている。これというキラーチューンは無いが、全体のクオリティの高さで、トータルで楽しめる。これぞアルバムの楽しみ方と言えるのでは無いだろうか。
先行シングルとなり、2002年にリリースされていたのは⑪「My Side Of The Story」。当時所属のMCAは、よくこれを先行シングルにしたなと思ってしまう骨太のスロウ。これはニッキのヴォーカルがしっくりとはまる。ブリッジ部分からのアイズレー風のギターは確信犯である訳だが、この展開が嫌いなソウルファンはいないだろう。
同様のアイズレー・マナーが展開されるのが⑨「Hint Of Love」[*1]と⑫「I Got It Bad」。特に⑫は、ブラウンストーン「If You Love Me」の共作者である、ゴードン・チェンバース(Gordon Chambers)と再びタッグを組んだ楽曲。アルバムタイトルの『Grown Folks Music(大人の音楽)』に偽りの無い、アダルトなムードが漂う。
-簡単にレコーディングできるものでは無いと思うのだが…-
ゲストと言えば、デイヴ・ホリスター(Dave Hollister)との⑩「She'll Never」も魅力的なスロウ。
“ブラウンストーンとブラックストリート(Blackstreet)は一緒にツアーしてたから、彼とは長い付き合いなの。“こういう曲があるんだけど、あなたが唄ったら素晴らしい物になると思う”って行ってみたら、デイヴは”俺は今、アトランタにいる。君はどこにいる?今から行くよ“って来てくれて、数時間でレコーディングを終えてしまったわ”(前出『bmr』より)
と本人が語っている訳だが、そんな数時間で終わりそうも無いほどヴォーカルに重点を置いた楽曲である。これをそんな時間で終わらせるという二人のスキルが恐ろしい...。
-セールスよりも大切なこと-
そのほか全体を見ても、一切捨て曲なし。冒頭から最後まで、90年代風のマナーを貫いている。①「Stop Messin Around」のヴィヴィアン・グリーン(Vivian Green)+マイク・シティ(Mike City)のようなミディアム、④「Summer」のSWV風の爽やかさに加えた、ジョデシー(Jodeci)よろしく“Thinking About You”の連呼、カーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)の「Trippin' Out」使いの⑤「Can't Forge」など、流行ではなく、好きなソウルを表現しましたという感覚が聴いてとれる。セールスは別として、2000年代の名盤と言えると思う。
(2021.07.28)
[*1]Aメロが「Make Me Say It Again」風、Bメロが「Footsteps In The Dark」風、途中でロナルド(Ronald Isley)風コーラス“ラーララー”と、こちらも完全に確信犯。