－フィリップ・ウーの参加－

前作のライヴ盤で正式メンバーとなっていたフィリップ・ウー（Philip Woo）が、スタジオ録音メンバーとしても参加した［*1］５thである。そのシンセサイザーの音色を活かして、全体的にさらにまろやかになった感がある。

－アップデート－

まずは軽快なブギーである①「Love Is The Key」からスタート。サビでのパーカッションのリズムに乗るメンバーのコーラス、ブリッジに施されたハーモニカがハートフルさを全開。１stシングルとなっていたこの楽曲は、R&Bチャート５位を記録し、いつも通り上々の滑り出しとなった。
続く②「Right On Time」もブギーのリズムにのるアップ。サビまで上って登って、フランキーの“Right On Time”でブレイクするような解放感が心地よい。
　これら２曲はファンクが施されたアップでありながらも、初期の泥臭さとはまた違う魅力を届けてくれている。変わらないメイズと言われて久しいわけだが、きちんとアップデートは施されているといえる。

－温かいスロウ－

アルバムはスロウに入っていく。アイズレーズ（The Isley Brothers）の「The Highway Of My Life」のような繊細さを持つ③「Your Own Kind Of Way」は、フランキーの持つ温かい歌声にピッタリとハマっている。
　そして人気曲の④「I Wanna Thank You」へ。もともと『Joy And Pain』からのシングル「Southern Girl」の裏面の楽曲としてリリースされていた楽曲であったが、本作からもシングルカット。R&Bチャート59位を記録している。フランキーがライブで歌うと、オーディエンス全体に“ありがとう！”といっているように聞こえてしまうのは、今までのフランキーが作り上げたブランド、メイズによるものだからであろう。

－推測だが･･･－

アルバムタイトルとなった⑤「We Are One」も人気があり、その後のライブでは欠かせない楽曲となっている。前作『Joy And Pain』で見せてくれた“洗練”の部分を継承した“お洒落”なミディアムである。お洒落といっても歌っている内容はタイトルそのままであることが、これまたメイズらしさといえるのではないだろうか。楽曲のアレンジはフィリップが加入したことによる繊細さが伝わってくるところで、（良い意味で）それぞれが思い切りやり過ぎないところ［*2］にセンスを感じる。

－フィリップ主導か？－

続く⑥「Never Let You Down」もシングルカットされた楽曲。日本だったら“シティポップ”文脈でも語られそうな、わかりやすいメロディラインに洗練されたアレンジというバラードは、R&B26位を記録している。
　⑦「I Love You Too Much」も③と同様、アイズレーズが歌いそうなスロウ。このあたりのアレンジはフィリップ主導によるものではないかと、勝手に推測してしまうが、一つひとつが計算されているように作られている。

－ナナフシギ－

それにしても、全８曲中（しかも⑧「Metropolis」は短尺のインスト）４曲がシングルになるなんて、本当に考えられない作品である。それだけ当時のメイズの人気がうかがえる。これだけ良い曲がそろっておきながら、日本で跳ねなかったのはなぜだろうと思ってしまう。

(2022.09.18)

［*1］フィリップは忙しかったのか、80年代は本作（とライブ盤）しか参加していない。しかし、93年の『Back To Basic』や、2008年の日本でのライブなどでも参加していることから、決してけんか別れしたわけではないことがよく分かる。
［*2］表現が難しいのだが、“能ある鷹は爪を隠す”というような、実力を引け散らかさないというか･･･。そういう意味で、ということが言いたいのです。
［*3］本作でのメンバーは、以下のとおり。All Music Guideを参照。裏ジャケでは８人の写真があるから、真相は･･･。
Frankie Beverly(Vo.G),Robin Duhe(B),Roame Lowry(Conga),Sam Porter(Key),Wayne "Ziggy" Lindsay(Key),Billy Friday Johnson(Dr),Ron Smith(G),Wuaneg Thomas(G),McKinley Williams(Per),Philip Woo(Syn)