1. 『Crave』
  2. MARC DORSEY
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『Crave』(1999)1999
margi_coleman

Review

-よくぞ生真面目な作品を!-

当時の時流であったチキチキビートを横目にみながら、正統派な作品を届けてくれたのが本作の主役、マーク・ドーシーである。独特な、秀でた物を感じる訳では無いのだが、実に真面目な作品である。

-秀逸なカヴァー-

その真面目さなのか、カヴァーした作品が丁寧。シャーリー・マードック(Shirley Murdock)の86年のヒットである⑦「As We Lay」は、まずは選曲から喜んでしまう。優しくマイルドなタッチだけに、ややAOR傾向も感じてしまうところだが、少ない音数を誠実に歌っているところに好感が持てる。ただし、同曲のカヴァーは、翌2000年にリリースされるケリー・プライス(Kelly Price)のソウル度の高すぎなカヴァーには敵わない。完成度が高すぎる相手だけにこれは致し方ないところである。ケリーよりも先にカヴァーしているという目の付けどころに注目してもらいたい。

続く⑧「All I Do」スティーヴィー(Stevie Wonder)のカヴァ。当然元の楽曲が良いわけだからというところはあるのだが、原曲よりもBPMを落として深く歌い込んでいくスタイルは本作のキキドコロと言えるのではないだろうか。[*1]

-心を溶かすメロウな歌声…-

日本盤の帯には、上記のうたい文句があるわけだが、それを一番感じるのはボーナス・トラックである⑫「When All Is Said And Done」キース・スウェット(Keith Sweat)の「Make It Last Forever」のパートナーを務めた彼女とのデュエットである。ジャッキーはデビュー当時から、この「Make It Last Forever」のイメージを背負ってしまっている訳だが、そのプレッシャーも跳ね返すように、今回も期待に応えてくれる。このスロウは抑揚の少ないメロディ・ラインであるが、きちんと心に響いてくれる。そしてライナーノートで明かされているのは、まさかの発言。“実はいま、彼女と同棲してるんだ…”[*2]。それは感情を込めて2人とも取り組んだはずだ、とうなずけた。

-アル・グリーンというよりも-

ミディアム~スロウが中心の中で、ファンクへの振り幅を大きくした⑤「Can I You Ever Love Somebody」については、ライナーノートで本人が“アル・グリーン(Al Green)が歌いそうな曲だろ!?”と語っているが、筆者はスライ・アンド・ファミリー・ストーン(Sly & The Family Stone)の「If You Want Me To Stay」に似ていると感じる。南部と言うより、サンフランシスコのファンクだと捉えてしまう。同曲と言えば、エリック・ベネイ(Eric Benét)が名作『True To Myself』でカヴァしてくれているわけだが、このの感触としては、スライよりもこちらに近く、アップデートされたミディアム・ファンクとして愉しめる。

-豪華な裏方陣-

アルバム全体を仕上げているのは、ジャイヴということもあり、ティミー・アレン(Timmy Allen)[*3]。そして脇をジョリオン・スキンナー(Jolyon Skinner)ラリー・キャンベル(Larry “Rock” Campbell)というゾンバ(Zomba)系の布陣で固めるという手堅い造り。安定した作品になることを約束されたようなものである。また、①「If You Really Wanna Know」マニュエル・シール(Manuel Seal)[*4]が提供。90年代を裏で支え続けた人脈を贅沢に盛り込んでいる。その分冒険という演出はなかったわけだが、危険な冒険は不要。マークというシンガーの特性を捉えた、彼らしさを充分に理解した職人たちによる1枚である。

(2021.10.23)

[*1]時流なのだろうが、ここではチキチキビートを感じてしまう。しかし、そこには不安定さはなく、安心して愉しめる。⑬「If You Really Wanna Know」の①のリミックスはちょっとチキチキしすぎ…。
[*2]ジャッキーが登場してから10年以上たっていたため、かなりジャッキーが年上ではないかと思っていた。ジャッキーのプロフィールは探したが、生年まで記述があるものを探しきれなかった。
[*3]ステファニー・ミルズ(Stephanie Mills)の「(You're Puttin')A Rush On Me」というNo.1ヒットを持つプロデューサー。他にも、グレン・ジョーンズ(Glenn Jones)フレディ・ジャクソン(Freddie Jackson)らのベテランや、バックストリート・ボーイズ(Backstreet Boys)といった時流のグループなどを手がけている。ジェフ・レッド(Jeff Redd)の名作『Quiet Storm』にも尽力。
[*4]マライア・キャリー「We Belong Toghther」でグラミーを獲得した、今更説明不要のプロデューサー。ここでは、LSGジェラルド(Gerald Levert)の作品も手がけていることだけの説明にとどめたい。

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