1. 『The Big Throwdown』
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『The Big Throwdown』(1987)1987
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Review

-ポップすぎやしませんか!?-

この3rdアルバムには、R&Bチャート制覇はもちろん、POPチャートでもベスト5入りする大ヒットとなった①「Casanova」が収録されている。当然リヴァートを語る上で欠かせない楽曲なわけだが、筆者は長い間この楽曲を受け入れられないでいた。簡単に言うと、“ポップすぎる”ということであった。歌詞の面でもカサノヴァ[*1]というタイトルからして、明らかに軽すぎる。筆者はリアルタイムでこの作品を聴いたわけではないので、なおさら思うのだろうが、あまりにリヴァートらしくない。
 この楽曲を制作したのはレジー・キャロウェイ(Reggie Calloway)[*2]。そのクレジットをみた瞬間に、その軽さが理解できた。ミッドナイト・スター(Midnight Star)のオリジナルメンバーであり、のちにキャロウェイ(Calloway)で作品をリリースしていく訳だが、筆者にとっては、それらはどうしてもポップによりすぎていて、好んで聴くことは、正直少なかった。そんな理由からか、やはりも深く聴くことはなかった。
 しかし、ようやくその良さがわかってきた。これが最近のことであるから情けない。これがニュージャックの誕生のころに生まれつつも、それとは異なってどこか80年代中期のアニタ・ベイカー(Anita Baker)的な雰囲気を持っていることを思うと、とても面白く、繰り返し聴くことで中毒性をもっていることに気がついたのであった。やはり昔の作品でも一聴するだけではわからない良さがあり、そこに音楽の持つ底力を感じたのであった。

-レジー以外の楽曲-

レジーは他にも約9分の大作⑧「Temptation」も提供。も約7分あるので、レジーも力を入れて取り組んでいたことがよくわかる。しかし、それ以外の楽曲の方が秀逸。ほぼドラムの打ち込みを行っているクレイグ・クーパー(Craig Cooper)[*3]が大きく活躍している。

ジェラルド(Gerald Levert)マーク(Marc Gordon)が作曲し、クレイグがまとめたと思われるスロウの④「My Forever Love」はオーソドックスな作り。その後のリヴァートの骨組みとなるような、ジェラルドのヴォーカルを活かした作風になっている。最初は鍵盤の音と優しいヴォーカルで入り、徐々に音数を増やしていき、サビで盛り上がるというのは、メン・アット・ラージ(Men At Large)の「So Alone」のようである。
 それでも一番リヴァートらしいのは③「Don't U Think It's Time」になるだろうか。ポップによりすぎないギリギリのバランスに、横揺れしたくなるゆっくりとしたビートが心地よい。この“やはりR&B”といえるような作りが、筆者的にはリヴァートらしさを感じるところである。

また、作曲がマークのみのクレジットである⑤「Love The Way U Love Me」も秀逸。イントロからどこか憂いのベールをまとったような雰囲気に、哀愁のギターが重なってくるミディアムである。また、シャッフルの⑥「Sweet Sensation」や、ニュージャックを試みている⑦「In n Out」なども、音は古いが充分に楽しめる。

-時流を感じる-

アルバムリリースは、87年の7月。キース・スウェット(Keith Sweat)「I Want Her」がリリースされる2ヶ月前にあたる。ニュージャック前夜を強く感じ取れる、貴重な作品であることは間違いない。リヴァートが黒人音楽史でどれだけ重要であったかは、現在よりもそう遠くない未来で証明されていくのではないだろうか。

(2021.12.11)

[*1]直訳すると“色男”“女たらし”。
[*2]このころのレジーの仕事ぶりは半端ない。①のあとは、グラディス・ナイト&ピップス(Gladys Knight &The Pips)の「Love Overboard」、翌年には、テディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)の「Joy」でR&Bチャートを制覇している。
[*3]パパ・リヴァート(Eddie Levert)のオージェイズ(O'Jays)から親交のあるキーボーディスト。前作にも参加している。ティース(Tease)やヴェスタ(Vesta Williams)、クリストファー・ウィリアムス(Christopher Williams)らの作品にも参加している。

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