1. 『I Get Hot』
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『I Get Hot』(1985)1985
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Review

-リヴァートの始まりと、CD化への思い-

リヴァートの歴史の始まり。フィラデルフィアのインディ・レーベルであったテンプリー(Tempre)からリリースされた1stである。長きにわたり、CD化されることは無かったが、2012年に林剛さんの強い思いにより、世界初CD化が実現した。その解説書も読み応え充分で、それを読んでいただければ全てがわかる。それが完璧すぎるので、ここではそのライナーノートから拾い上げた記述によるところが多いことをお許しいただきたい。

-七光りを軽く超越-

インディながらR&Bチャート70位を記録した①「I'm Still」からスタートするのだが、この楽曲だけで、“パパの七光り”なんて言葉はかき消されてしまう深く渋い仕上がり具合。当時18歳だったジェラルド(Gerald Levert)の劇渋なバリトン・ヴォイスは、その後のリヴァートの躍進を予感させるには充分なものである。音数自体は少なく、ジェラルドのヴォーカルを堪能できる作りなのだが、これが新人か!?と疑いたくなるほど、堂々と聴かせてくれる。

-8割7部5厘-

マーク・ゴードン(Marc Gordon)ひとりのライティングによる③「I Want Too」は、彼らしいポップよりなミディアム。わかりやすいメロディ・ラインが親しみやすい。リヴァートよりもルード・ボーイズ(The Rude Boys)などによるかわいらしさが顔をのぞかせている。ライナーによると、本人はプロデュースには参加しておらず、作曲のみを担当しているらしいが、これは1stアルバム、かつ、実力のある裏方に囲まれた(=良い意味で)結果であろう。
 また、エムトゥーメイ(Mtume)を意識したようなイントロで始まるライト・ファンクな④「Exciting Lady」や、王道ハチロク系スロウの⑥「Dancing With You」はジェラルドによるもの。プロデュースや演奏自体は、周りの力を借りながらも、全8曲のうち7曲をメンバーの作品になっており、彼らの実力を感じさせてくれる作りになっている。

-フィリー人脈による1曲-

前出のとおり、8曲中1曲だけが、メンバー以外のペンによるもの。それがタイトルにもなっている②「I Get Hot」である。これは、テンプリーのオーナーだったハリー・J・コームズ(Harry J.Coombs)が大きく関係している。彼は以前、ギャンブル&ハフ(Kenneth Gamble & Leon A.Huff)が主宰するフィラデルフィア・インターナショナル・レコード(Philadelphia International Records)で働いていた。この頃の人脈を活かし、地元の雄であるデクスター・ワンゼル(Dexter Gilman Wansel)[*1]と、名コンビであるシンシア・ビックス(Cynthia DeMari Biggs)[*2]にも1曲作成してもらうことを交渉し、実現。いかにも80年代前半の音作りではあるものの、リヴァートとはまた違った雰囲気のミディアムになっていて、作品のフックのような役割になっている。元MFSBノーマン・ハリス(Norman Harris)もギターで参加したりと、インディ・レーベルにしては豪華になっているのは、エディ(Eddie Levert)の力によるものもあるのだろうと想像できる。

-レコードの作り方-

「(フィリーの)スタジオでレコーディングできる!と思っていたら、自分たちが書いた曲をエディたちの前で歌ってみせただけで終わり。残りはエディやバンドのメンバーが作り上げていったんだ。」(ライナーノートより)
とマークが語るとおり、ほとんどは大人たちが作り上げていったに違いない。恵まれた環境のリヴァートではあったものの、当時の本人たちの気持ちもわかるような気がする。当時一番年上のマークでさえ20歳そこそこのはずで、これはレコードを作ることにおいては仕方なかったのかもしれない。しかし、この悔しさと経験がのちのグループの成長につながっているのは言うまでもないだろう。

(2021.12.19)

[*1]70年代後半から80年まで、自身のアルバムもPIRからリリースしているプロデューサー。ジャクソンズ(The Jacksons)、MFBS、テディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)などPIRのアーティストを中心に手がける。シンシアとのコンビでも、スタイリスティクス(The Stylestics)などで共作している。
[*2]ゴスペル・グループ、オーバーブルック・シンガーズ(The Overbrook Singers)でキャリアをスタートさせ、後に裏方に転身。ミキ・ハワード(Miki Howard)やジェラルド・アルストン(Gerald Alston)など多数に楽曲提供している。

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