1. 『Bloodline』
  2. LEVERT
  3. artist
  4. privatesoulmusic
『Bloodline』(1986)1986
levert-the_whole_scenario

Review

-血 統-

2ndアルバムではあるものの、メジャー配給によるデビュー作。タイトルは『Bloodline』。これほどまでにまっすぐなタイトルはない。しかも、ジャケットの裏面には、しっかりパパ・リヴァート(Eddie Levert)が笑顔で登場。そこにうつるジェラルドの若いこと、痩せてること…。いずれにしても全員が元気な姿で、若さがはじけていることを恥ずかしげもなく映し出していることに、思わずこちらまでほっこりした気持ちにさせられてしまった。

-時代を超える名曲の誕生-

まず何はなくとも①「(Pop,Pop,Pop,Pop)Goes My Mind」という時代を超越して聴き続けられる名曲から語るべきであろう。テディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass)がやりそうなミディアムトラックに、歌いまくるギター、そしてジェラルド(Gerald Levert)の声がのるスロウは、メジャー・デビューしたばかりであるにもかかわらずR&Bチャートを登頂してしまうわけだが、決してその一過性のものだけでは語れない。86年という時代の音は、生音に加えて打ち込みが入り込んでくるわけだが、その音がどうしても古く聞こえてしまう。これはこれで味、と捉えて聴き入るのだが、この曲に至ってはその割引が皆無といえるほど。35年経過した現在でも色あせていないのである。
 作曲は若き日のジェラルドとマーク・ゴードン(Marc Gordon)というところが流石!と言ってしまえるのだが、その脇を固めているメンバーも実力者だった。1930年代から40年代にかけてジャズ畑で活躍したトロンボーン奏者、ケグ・ジョンソン(Keg Johnson)の息子で、70年代のファンクバンド、レイクサイド(Lakeside)・シャラマー(Shalamar)・グラディス・ナイト&ザ・ピップス(Gradys Knight & The Pips)らを手がけていたケグ・ジョンソン・Jr(Keg Johnson .Jr)と、同じくギャップ・バンド(Gap Band)・グレン・ジョーンズ(Glenn Jones)を手がけていたウィルマー・ラグリン(Wilmer Raglin)という2人がジェラルドらと共同プロデュースを行っている。さらにギターはフュージョンサイドからデヴィッド・T・ウォーカー(David T.Walker)が参加するという芸当は、サラブレッドが成せる技だったのではないだろうか。とはいえ、ジェラルドの力量がしっかりと発揮されており、あくまで主役はリヴァートとはっきりいえる仕上がりになっている。
 ちなみに、ケグとウィルマーは、この曲の他、作品内のアップチューンである③「Pose」⑦「Grip」⑧「Looking For Love」を担当している。

-ジューシー・フルーツのような…-

これまたサラブレッドだからと言われかねないのが、エムトゥーメイ(James Mtume)の参加である。ミディアムの②「Fascination」をジェラルドらと共作、スロウの④「I Start You Up,You Turn Me On」を提供している。どちらもエムトゥーメイらしさのある、ヒトヒネリある楽曲なのだが、よりらしさを感じるのはのほう。浮遊感漂うトラックに、ミュート・ギターを施し、どことなく都会感を残しているところに、80年代を愛する人は惹かれるはずである。

-後のリヴァートを提示する楽曲-

そんな大御所たちが居るなかで、きちんと自分たちらしさを伝えているのが⑤「Kiss And Make Up」⑥「Let's Go Out Tonight」。今後のレヴァートの方向性をきちんと提示してくれている。デニス・ウィリアムス(Dennis Williams)[*1]というソウル・プロデューサーが手がけていることで、多少80年代中盤のキラキラした雰囲気が残っている訳だが、はまさしくリヴァートの音作り。イントロのギターからアダルトな雰囲気を醸し出し、ジェラルドの(ここでは)吠えすぎないヴォーカル、そしてまたしても歌うギターと、これもまた時代を超えて聴き続けられる名曲である。

-急に誕生したニュージャックではなく-

ニュージャック以降直前の86年作であり、確かにその時代を感じる。しかし、キース・スウェット(Keith Sweat)「I Want Her」以前にこの作品はリリースされていながらも、などはニュー・ジャック・スウィングと言える音作り。このあたりがジェラルドの感性なのだろう。キースやテディ・ライリー(Teddy Riley)が生みの親とされるニュー・ジャックも、その素養は87年以前からのR&Bシーンで提示されていることは明らかである。

(2021.11.26)

[*1]名前を聞いたときに、ん?「私はデニース」のデニース・ウィリアムズ(Deniece Williams)ね。ケグも以前プロデュースしてたからそのつながりでなんだろうなぁ、と勝手に思っていたのだが、よくみると綴りが違う…。デニースじゃなくてデニスね…。

List

TOPへ