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『New Beginning』(2013)2013
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Review

-待ち焦がれた-

14年ぶりの新作としてリリースされた3rdである。デビュー作からカルト化し、2ndも含めてレア盤として取り扱われていた彼らの作品であるが、筆者が双方を手にしたのは2010年。もちろん彼らの存在は知っていたわけだが、作品に触れてからはおおよそ3年ということになる。しかし、その期間ですら長く感じてしまうほど期待していた訳だから、デビュー作から手にしていた方々にとっては、どれほど待たされたものだったのだろうか。
 そんな大きな期待は本国ではもっと大きな物であったに違いない。しかし、プレッシャ―もなんのその。大充実作を作り上げている。

-その期待に充分すぎるほど応えてくれる-

この作品については、HMVのインタビューに詳しい。そこで、ロイが“New Beginningというタイトルには、レ・ジットの再出発という意味もあるが、全ての音楽のルーツとも言えるR&Bを蘇らせるという意味を込めた”というような内容のことを伝えている。その言葉だけで、この作品が流行に流されるものではないことが確認できる。いわゆる“ウタモノ”が勢揃い。どこから話して良いかわからないほど素晴らしい楽曲たちがひしめき合っている。

先行発表されていたのは③「Honey」④「I Found Love」。ブリッジ部分でデバージ(DeBerge)の「I Like It」を挟んだ激甘スロウのは、ジョンのハイトーンも目立つわけでも無く、ロイが歌い倒すわけでも無く、リードを回しながらひたすらバランス良く口説いていく。これぞソロでは味わえない3兄弟によるハーモニーであろう。続くは、ウェディング・ソングとして定着して欲しいと本人たちが願うものだが、作品中としては異色。サザンソウル風に、ギターとコーラスでロイが粗く歌うところにソウルを感じることができる。これが異色といえども、アルバムに溶け込んでいないわけでは無く、ゆったりと優しい気持ちで聞くことができる。

この2曲に続く、ミディアム3連発がたまらなくカッコイイ。AORの世界ではおなじみ、アンブロ―ジア(Ambrosia)[*1]の「How Much I Feel」をサンプリングした⑤「Dance The Night Away」のリズムは、古いソウルの感覚を持ちながらも新しく聞こえる。続く⑥「Dedicate This 2 My Baby」は、打ち込みの音が目立ちながらも、ところどころに入る生音とロイの声により、全く軽い音には聞こえない。⑦「No Woman」と組曲ではないかと思うほどスムーズに入り込む。上記の2曲よりもわかりやすいメロディは爽快である。
 同様のミディアムは、流れるような⑪「How Can I」や、ロイのソロ作からの再掲である、かわいらしい⑭「Groove Swing」などでも楽しめる。

-3人の声を活かしたスロウ-

これら3曲に続いては、スロウダウン。一番bpmが遅いであろう⑧「Farewell」へとつながる。この楽曲はマーク・ミドルトン(Mark Middleton)[*2]が提供しているというのだが、マークから“レ・ジットにピッタリの楽曲があるんだ”と言い、渡してくれたようである。1stで話題となった「Cause I Love You」タイプの誠実なバラードである。
 以下も申し分ないラインナップが続く。達郎さんが得意とするようなリズムの⑨「It Won't Work」、ジョンのファルセットが楽しめる⑩「Good Woman」、こちらもロイのソロ作から再掲である⑫「Sweet Potato Pie」、正統派のゴスペルライクな⑮「Thank You」など、どこも抜かりなく作られている。

-本作こそ、捨て曲一切なしと言える-

上記に掲げなかった楽曲ももちろん秀逸。本当の意味で、捨て曲が一切ないと言い切れる。アルバムの幅を持たせるためだろうか、往々にしてヒップホップ・テイストの楽曲が必ず入ることが昨今の作品の決まりのようなものであるが、ここがインディで生きる彼らの強みなのかもしれない。

-手に入れやすいようで…-

幸いにもこの作品の流通は多く、決してレア盤ではない。いつものようにamazonを確認すると…¥1~だと!驚きとともにいろいろな感情がわいてしまうが、多くの方が聴けると思えば…。そうであれば、あえて軽口で言ってしまえば、“恐ろしくコスパの良い作品”といえることは間違いない。

(2022.06.03)

[*1]本Webサイト的には、TAKE6が歌ってヒットした「Biggest Part Of Me」のオリジナルを歌っている白人トリオ、と説明した方がわかりやすいかもしれない。やはりAORとの融合は溶け込みやすい。
[*2]元ブラックストリート(Blackstreet)のマーク・ミドルトンのこと。2000年からビジネスにおいては付き合いがあったとのこと。この楽曲もその頃に作られたものらしい。

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