-石島さんの名解説-
前半のアップは彼の姿勢が常に前向きであることの主張以外の意味をなさず。…後略。(『bmr』2002.10 No.290)
上記は石島春美さんによるクリティカルアイズである。思ったことをそのまま、何にも臆せずに書いていることに、その愛情をたまらなく感じる。もちろんこの言葉以降、後半については万歳三唱!とも書いてあるとおり、全てを否定しているわけでは無いのだが、ここまではっきりと書ける石島さんのすごさを改めて感じた。
筆者もそのままの感情である。当時の流行の音、ということでロイ・ハミルトン(Roy “Royalty” Hamilton)を②「Gots To Have It」~⑥「The Right Stuff」まで[*1]大胆に起用したわけで、その理由もわかるのだが、筆者は理解できる耳を持ち合わせていなかった、ということになってしまった。
-ここが求めている音-
しかし、当然キースにはスロウがある。いつもどおり、後半に重く収録されているのだが、⑦「One On One」からは前半が嘘のように、期待通りの音を届けてくれている。
まずはアトランタのインディ界で話題の4人組、レイド・バック(Lade Bac)を従えた⑦は、前作でもエンジニアとして活躍していたアル・E・キャット(Al E. Cat)が担当。キース周辺のオル・スクール(Ol Skool)やシルク(Silk)などの作品に、フィッツジェラルド・スコット(Fitzgerald Scott)と参加しており、気心が知れた身内といえる人物である。流石に合わないはずもなく、大切な後半のスタートを飾ってくれている。ロジャー(Roger Troutman)風のイントロから心をつかまれ、キースの湿度の高い声との蜜月具合がたまらない。
タイトルから組曲かと思ってしまった⑧「Show Me」⑨「Trust Me」も安心のスロウ。一聴すると、堅く壮大になりそうなメロディラインを、⑦と同様にトーク・ボックスを駆使したコーラスで柔らかく仕上げた⑧、往年のナスティ系スロウである⑨と、アルバムタイトルの『Rebirth』の意味がよくわからなくなってしまう[*2]ほどの、いつものキースである。
-若手を育てるシリーズ-
そんなスロウ群のなかに、地元アトランタのプロデューサーであるチャンズ(Chans)を起用したのが⑩「Wonderful Thang」である。オル・スクール、アンドレア・マーティン(Andrea Martin)やヒップホップサイドでも活躍した人物で、幅広い見識がありそうなのだが、今回はオーソドックスなスロウを手がけてくれている。また、前作でも重要な楽曲を手がけたディ・ディ(De De)が⑪「In & Out」を手がけたりと、相変わらず地元の才能を育てるという心意気が見えてくる。⑫「Can It Be」にもドニ(Doni)という女性を迎えているのだが、彼女もまたそういったキースが紹介したかった人物だったのではないだろうか。アーニー・アイズレー(Ernie Isley)のようなギターが張り巡らされており、スロウでありながらも緊張感がある曲になっている。
-大いなる反則-
アルバムの最後には、反則的なライブ曲が収録。イントロ的な⑭「Live Bonus Track」で盛り上げておいての⑮「Twisted(Live)」。悪いはずがない。これが、次にリリースされたライヴ盤『Sweat Hotel Live』への布石だと考えればうなずけるのだが、やはりなんだか守りに入っているような気もして、複雑な心境になってしまう。普通に諸手を挙げて喜んで楽しむのが本来あるべき姿と理解しつつも…。筆者が歳をとった証拠なのかもしれない。
(2021.08.02)
[*1]ハミルトン氏はスロウの⑬「What Is It?」も担当したのだが、正直相性が悪かったのではとしか思えない。
[*2]復活作でもないのに『Rebirth』というタイトルにしたのは、前作が数字的に良くなかったからなのか?流行の音をふんだんに入れた前半のことなのか?この後ライブ盤を挟む物の、新譜はキースにしては長いタームでリリースされることを考えると、さらに謎が深まってしまうのだが…。