-おかえりなさいませ-
前作『Rebirth』で記述したのだが、近年の作品の前半は、正直あまり理解できなかった。流行を、数字を…と意識したようだが、ここには賛否両論あった。
この9作目は、前作から6年のインターバルがあったことや、その間に2枚のお蔵入りアルバム[*1]があったこと、長年所属してきたエレクトラ(Elektra)を離れてアトコ(Atco)へ移籍、と大きな状況変化があった。それが良い方向に作用し、アルバムタイトルのとおり、“Just Me”な内容となった。
-聞こえるオールド・スクールと昔の仲間-
始まりはフィーチャリング・アーティストを迎えていることから、いつも通りのアップでくると予想していたのだが、うれしい裏切りがある。スウィート・ソウルが聞こえてくるのだが、これがブルー・マジック(Blue Magic)の「What's Come Over Me」。その後にDJの声が入ってくるものの、途中で「La La Means(I Love You)のヒトフシ。この①「Somebody」は、ヒップホップ要素が無いわけではないが、このところのアルバムの入りから考えるとずいぶんと聴きやすい。そう、これでいい。
続く②「The Floor」は、久しぶりにテディ・ライリー(Teddy Riley)とのタッグ。となればダンスだろうと予想する訳だが、これまたスロウ。ここに今回のキースの選択=ミディアム・スロウで固めるという信念を感じた。安易に最近の音を絡ませ、テディとの話題だけで持って行くことをしなかったことに敬意を表したい。
-やっぱり女好きなのね-
その後もスロウ中心に展開。アップデイトされた2008年の音を多少取り入れながらも、真は崩さない楽曲が並ぶ。そして、キースのファンなら待ってましたと言いたくなるアシーナ(Athena Cage)をフィーチャーした⑤「Butterscotch」へ。タイトルから期待せずにはいられない訳だが、そのハードルを難なく越える名スロウとなった。きれいな旋律のピアノと控えめにアーニー(Ernie Isley)的ギターを後ろに配置して、冷静さと情熱を見せてくれる。このアルバム以外でもアシーナの他に美声を聴かせてくれているパートナーは多数いるわけだが、やはり彼女に敵う相手はいない。
とはいえ、シングルにもなった⑦「Suga Suga Suga」でのパートナー、ペイズリー・ベティズ(Paisley Bettis)が17歳とは思えない堂々とした立ち回りを、時には可愛らしく見せてくれるし、キーシャ・コール(Keyshia Cole)との⑨「Love You Better」は、キーシャが主役を奪うわけでも無く、二人のバランスがしっかりとれた大人の仕上がり。やはり、キースと女性との化学反応は健在であり、これこそが真骨頂だろう。
-話題にならなかったが…-
全体が良く出来ており、上記のような楽曲で話題性もある。久しぶりにR&Bチャートで首位をとったこともうなずける内容なのだが、あまり話題になっていない名曲は⑥「Me And My Girl」ではないだろうか。最新の音に挑戦したいという未来志向、スロウを中心としたオールド・スクールという、デビューからキースがチャレンジしてきたことを、一番昇華させた楽曲に思える。
また、地味と言えば地味だが、淡々と進みつつも後半に熱を帯びる⑪「What's A Man To Do」も印象的。これを手がけたのが、前作で筆者的には合わなかったロイ・ハミルトン(Roy “Royalty” Hamilton)というから驚く。前作でもこっちの雰囲気を見せて欲しかったと改めて思ってしまった。
-この方向性でずっと-
Webで検索すると、キースの作品の中でも、いろいろな方がレビューしている数の多い作品。きっとこういった作風をみんな待っていたという証拠ではないだろうか。[*2]
(2021.08.20)
[*1]2003年に『Untitled』、2006年に『Welcome To The Sweat Hotel』という作品を作るもお蔵入り。前者はアシーナとのデュエットも含んでいて、少なくとも『Rebirth』よりは良い出来だった。
[*2]ちなみに日本盤ボーナストラックには、エイコン(Akon)とのコラボが入っているが、決して待っていたスタイルではない。買うのは輸入盤で充分かと思っている。