-しかたないのだが…-
カシーフ(Kashif)に注目が集まるのは、どうしても80年代。シンセサイザーを駆使し、時代の音を築き上げた功績を考えると当然のこと。当時の彼が手がけた作品は、メロディアスな楽曲が多数並ぶショーケースである。ニュージャックの登場付近から表舞台から消えてしまったことは、“時代についていけなくなった”と揶揄されることも多い。しかし、本当にそうなのだろうか?それを検証できるのがこの復活作であろう。
-発売はエクスパッションから-
やはり時代の要請だったのだろう。彼のようなクワイエットなアーティストは、アメリカのマーケットではフィットしないと判断された。そのため、UKのエクスパンション(Expansion)からのリリースとなった。カシーフにはしっくりくるレーベルだろう。なんといってもクワイエット大王のゲイリー・テイラー(Gary Taylor)が所属していたのである。作品もなんとなく想像がつくというものである。
-想定通り-
そのイメージは(良い意味で)崩されることもなく①「Bed You Down」が始まる。ミディアムに乗せるカシーフの声に、昔からのファンは酔いしれたに違いない。続く②「Good Ol' Days」ではゆっくりとしたベースラインやスネアに色彩を加えていく。この時点で彼が復活したことをはっきりと認識できる。そしてブリッジ部から鳴き倒すギターは、プリンス(Prince)のそれよりは激しくなく、アーバンにしては力強くと、このギリギリのバランスを乗りこなしているところなど、もはや芸術の域といえる。また、それを手がけたドゥウェイン・ウィギンス(Dwayne Wiggins by Tony Toni Toné)は、やっぱりギター小僧なんだろうと改めて感じさせられた。
ゲイリー・テイラーと共作したのは③「Rhythm of My Mind」。シンセの音とコーラスを巧く配合しているところがカシーフの真骨頂だろう。さらに“ジャズとブラックの架橋”であるジェラルド・アルブライト(Gerald Algright)がSAXを吹いている。
-非商業的-
インストの④「Brooklyn Breezes」には、メイズ(Maze featuring Frankie Beverly)からマイケル・ホワイト(Michael White)がリズムを刻む。この大人のエロい(R.ケリー(R.Kelly)やHIP HOP的なソレとは異なる)サウンドには、ジャズをしっかり理解している彼が当てはまるわけで、さすがの人選と言える。それにしてもこの妖艶な世界は心地よい。クール&ザ・ギャング(Kool &The Gang)の「Summer Madness」を思い出させてくれる。同様に怪しげなインストは⑥「Mingo Weya」でも堪能できる。こちらは10分を超える大作でありながら、地味にメロディを展開。このあたりが商業的ではないのだろうが、この2曲を作品に収めてくれるところに、カシーフのミュージシャン・シップ感じずにはいられない。
-後半には懐かしさも-
語りから入るスロウの⑤「I Don't Give a Damn」や、軽やかなリズムとファルセットで入る⑧「Lay You Down」などが80年代っぽいところをついている。⑧に至っては、これが1曲目にきたほうが良いような気がするほどカシーフらしさが溢れている。“クラブ”ではなく“ディスコ”向けと言える最後の⑨「It's Alright」⑩「Who Loves You?」は、2つで1曲。タイトルも「Part.2」と名づけてしまうところが嬉しいファンク・テイストな1曲。シーラ・E(Sheila E)のパーカションも印象的だ。
-立場-
いかがだろうか?カシーフはやっぱり80年代までだったろうか?上にも記したが、確かに商業的センスは失われている。しかしここには、本当に彼が“やりたい音楽”が詰まっていると思う。80年代は流行を追わなければならなかった立場だった彼が、ようやく落ち着いて、腰を据えて創作できた作品なのではないだろうか。少なくとも筆者は、この作品で“カシーフは復活した”と言い切ってしまいたい。
(2011.12.24)