1. 『Voices』
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『Voices』(2005)2005

Review

-反則的変化球-

例年1年ごとに新作をリリース(恐ろしいペース)していたジェラルドだが、今回は新作を含むベスト盤的な位置づけになっている。ベスト盤“的”というのは、本人の作品からデュエットものを集めただけではなく、他のアーティストへの提供曲を、しかも本人が登場するものを集めているからである。こういったことができてしまうのは、ジェラルドが真のアーティストだからということの証明だろう。  

-どこを切り取れというのか-

どの曲も本当に隙がなく、最初から最後まで至福の時間が約束されている。いきなりレヴァート(Levert)名義で始まる①「I Like It」から、自分の顔がにやけていることが確認できる。ジェラルドの語りから始まるミディアムは、派手さはないのに惹きつけられるという彼らの真骨頂を感じることができる。フェイス・エヴァンス(Faith Evans)作の②「All The Times」LSGの作品から。もともと豪華な共演のLSGメンバーに、フェイス・エヴァンスをメインにココ(Coko)ミッシー(Missy Elliott)が絡んでくる。なんという贅沢な布陣だろうか。LSGだからこそ実現できたのではないだろうか。
 ③「Storm Has Passed」は一転してマニュファクチュア。レヴァート界隈で歌ったきたシェリーナ(Sherena Wynn)とのデュエットである。Aメロでは二人の声で静かに進み、さびで音を絡めたコーラスが襲ってくる。これだけでもストーム感が伝わってくるのだが、二人の対照的な吠える声、加えてコーラスと、声の嵐まで配備されている。

-ゴスペル要素-

④「It Hurts Too Much to Stay」⑩「All I Want Is You」ケリー・プライス(Kelly Price)との共演。彼女からはやはりゴスペル要素を感じてならない。ケイシー(K-Ci)まで仲間に加わったこと、これだけでも「あー、吠えるな!(喜)」と予想できるわけだが、後半のブリッジ部分からの極太感といったらたまらない。
 ゴスペル感といえば⑪「I Believe I Can Fly」ヨランダ・アダムス(Yolanda Adams)の作品から。R・ケリー(R.Kelly)の神聖サイドの代表作を歌っている。ここではジェラルドは“歌い手”として参加しているのもまた新鮮である。

-パパと仲間と-

パパ(Eddie Levert, Sr.)との共演作からは、ベット・ミドラー(Bette Midler)のカヴァ⑤「Wind Beneath My Wings」ジェラルド・アルブライト(Gerald Albright)のジャジーなサックスとピアノのシンプルな構成でアーバンな雰囲気。個人的にはもう少し黒いベクトルのものにして欲しかったと思うのは贅沢というものだろうか。
 身内でいえばルード・ボーイズ(Rude Boys)の作品である⑥「Written All Over Your Face」の方がよりもしっくりくる。これも彼ららしさ全開のかわいい楽曲である。同じ路線はミキ・ハワード(Miki Howard)へ提供した⑧「That's What Love Is」[*1]でも楽しめる。かなりポップに舵を切っても、ソウル感は残すところがジェラルドの仕事だなとうなずいてしまう。

-デュエットの魅力を改めて-

そんなかわいい作品に挟まれているのが⑦「Last Time I Saw You」ヴァネッサ・ウィリアムス(Vanessa Williams)のヴォーカルレンジの広さには圧巻される。
 しかし、それをも凌駕しているのが⑨「A Rose By Any Other Name」である。今更いうことではないのだが、ティーナ・マリー(Teena Marie)は、肌の色こそホワイトだが、本当にR&B・ソウル・アーティストだと再認識させられる。こんなソウルマナーあふれる楽曲を書き、ジェラルドのバリトン・ヴォイスを上手に包み込む。最初はジェラルドが作った楽曲かと思うほどソウル愛に溢れている。

-それぞれの作品でも触れているが・・・-

最後の2曲はLSG⑫「My Side of the Bed」メン・アット・ラージ(Men At Large)⑬「So Alone」。双方それぞれの作品で触れているわけだが、ココでも触れないわけにはいかない。
 はLSGの作品の中でも筆頭にあげたいほどのスロウ。のあとだと、より神聖に聞こえてくる。また、ジェラルドの声があまり登場しない[*2]を作品の最後に持ってくるあたり、本人もよほどこの楽曲が気に入っているのではないだろうか。それにしてもこの2曲で閉めるというのが、個人的には骨抜きにされてしまったところ。ずっとこの世界に浸っていたい・・・。

-無人島に持って行く、といえる作品-

冒頭に述べた通り、正式な新譜扱いではなかった。が、ベストアルバムでもない。とはいえ、そんなことはどうでも良くなるほどの楽曲たち。これからもたびたび聴き入ることは間違いない。
(2021.02.13)

[*1]本当にどうでもいいことだが、空耳ネタをひとつ。サビの終盤に「Nothing's closer than this」というフレーズが、どうしても「また交差点です」に聞こえて仕方ない・・・。
[*2]ここではニコラスとともにコーラスで登場。プロデュースはもちろん前出の2人。

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