-甘美なジャケットとタイトル-
”G“三部作の最後となる6枚目は、なんとも強烈なタイトル。ジャケット[*1]も含めてあまりにも直接的な表現にジェラルドの意気込みを感じる。セールス的には、前作より下がる全米9位ではあるものの、“だからどうした”という内容である。
-今回は、ほぼトレヴェル内で-
このところ“旬の作家”をゲストに迎えプロデュースまで依頼していたが、今回は全編本人によるもの。しかしながら、おなじみエドウィン”トニー”ニコラス(Edwin “Tony” Nicholas)との共作は③「Wilding Me Out」のみに留まり、その代わりにランダル・ボーランド(Randal Bowland)[*2]がほぼ全編をサポートしている。ランダルとも長い付き合いなので、ほぼ“トレヴェル製”と考えて良いだろう。
ただし、アクセントとしてなのだろうが①「Too Much Room」でミスティカル(Mystikal)を迎えている。彼のラガ・ラップがフィーチャーされている訳だが、筆者的には…う~ん。。。
-曲順の意義-
しかし、続く②「Since You Ain't Around」のイントロのギターの一音で心が踊る。やはりジェラルド。“そう、これだ!”とひと安心。
さらに続く③「Wilding Me Out」が今回の白眉な1曲。前出のとおり、エドウィンとの共作なのだが、クレジットを見ずともこの二人のペンによるものだなと察しがつくハートウォーミングなミディアム。女の子におかしくなる程好きになっている男を描いている歌詞にピッタリと当てはまっている。
④「Funny」はシングルだった楽曲。こちらも③同様かわいく仕上がっている。この②~④で、徐々にBPMが落ちていくのだが、この並び方が素晴らしい。曲順の意味をしっかりと感じ取れる。
-それぞれの音の絶妙なバランス-
⑤「The Top of My Head」はジェラルドにしては珍しくファルセットを多く披露。これが意外と!?はまっている。バリトンの語りとのギャップ萌えとでも言おうか。そこに背景で繰り返すギターのワウワウやエレピが絡んできており、主張はしないのに非常に効果的な演出が楽しめる。
同様の世界観はロイ・エアーズ(Roy Ayers)[*3]をフィーチャーした⑦「Oh What A Night」でも。ファルセットはないが、こちらもストリングスとギター・エレピが、これ以上ない配合でブレンドされている。もっともっとジャス・ファンクよりに仕上げるのかと思っていたが、ロイが敢えてイニシアティブをとらずにいたのではないだろうか。
-やりすぎない美学-
どエロのタイトル曲はどのようなものか…と思っていたが、⑥「The G Spot」は意外にもアコースティックな内傷的なものに。中盤にジェラルドの喘ぎ声は入っているとはいえ、純愛を表現したかったのではないかと察する。また、⑧「Closure」もアコースティック・ギターが印象的なスロウ。途中ストリングスが入ってきて、オーケストラ風で終わるのかと思いきや、そこまで引っ張らないところに好感が持てる。
-長く聴き続けられる楽曲たちが多数-
他にも、ジェラルド流儀のダンサーと言える⑨「Raindrops」や⑬「All That Matters」、アシュフォード &シンプソン(Ashford & Simpson)らの⑩「Your Smile」で魅せる古いソウルへの憧れ、渋い深い重たいソウルの⑪「Backbone」⑫「Catchin' Feelings」など、どこまでも長く聴き続けられる楽曲が勢ぞろい。これぞジェラルドらしさであろう。
(2021.01.09)
[*1]おそらくオハイオ・プレイヤーズ(Ohio Players)を意識したものではないだろうか。いや、そうに違いない。流石のオハイオ愛を感じる。
[*2]フィラデルフィアのギタリスト。レヴァートの『Just Coolin'』の頃から、ジェラルド絡みの作品でサポート。オージェイズ(The O'Jays)、ルードボーイズ(Rude Boys)などのトレヴェル作品でも登場している。古くはミキ・ハワード(Miki Howard)、グラディス・ナイト(Gladys Knight)、カシーフ(Kashif)らも手がけ、最近ではケム(Kem)の作品にもクレジットがある。また、久保田利伸『Neptune』にも参加している。
[*3]LA出身のヴィブラフォン奏者。ジャズ・ファンクの父。