1. 『In My Songs』
  2. GERALD LEVERT
  3. artist
  4. privatesoulmusic
『In My Songs』(2007)2007

Review

-まさか遺作になってしまうとは・・・-

ジェラルドが亡くなる前に作り上げたソロ名義最終作。その前にテレビでダイエットに挑戦していたり、南アフリカにいったりと本当に多忙な中の死。なにがなければ最悪の形にならなかったのか、などは誰にもわからないわけだが、とにかく人類はこの類い希なる才能を失った。享年40歳とは若すぎる。
 そのような背景を持ちながら、最後の曲が⑫「Is This The Way To Heaven?」とは、こんな皮肉な偶然があるだろうか。ジェラルドの楽曲の中でも本当に穏やかな暖かいスロウはいろいろと考えさせられてしまう。  

-盟友とは永遠に-

最終作となるとは思っていなかっただろうが、ふさわしいというべきかわからないが、この作品はほぼジェラルドとエドウィン(Edwin “Tony” Nicholas)によるもの。これまで多数のゲストを迎えてきたが、筆者としてはこれが最終作にふさわしいと心から思う。やはりこの盟友とのコンビがフル活動してこそのジェラルドだと考えている。

-涙腺崩壊-

パパ・リヴァート(Eddie Levert)の語りから入るのは予定していなかったのだろうが、これが涙腺を刺激する。その語りからオールドスタイルのスロウ①「In My Songs」が始まるのだが、どうしても背景を考えて聴いてしまうので心に響いて仕方がない。もし、彼が健在であったならまた違った印象をもったに違いないだろう。南の匂いのする楽曲はジェラルドのバリトンボイスと相性が良い。
 続く②「I Don't Get Down Like That」はいかにも2人の作品!といいたくなるミディアム。背景に張り巡らされたギターのリフと暖かいホーンのような音色を融合させ、包み込んでくれるようである。フレディ・ジャクソン(Freddie Jackson)へ提供した「Rub Up Against You」を思い出したが、それよりはもっと優しい仕上がりである。

-現役感-

一転してダンサーの③「DJ Don't」はシングル。現役感半端ない老若男女が好みそうな、まさしくヒットしそうな楽曲である。途中でクラップを入れたくなる要素が横揺れを誘発し、「DJ Don't!」と伝えてくれるジェラルドに共感するような仕組みで、実際フロアでも充分通用するものである。④「Wanna Get Up WIth You」も続けて聴きたいアップで、同様に横揺れを引き続き楽しめる。DJはきっとを終わらせてもを用意していたのだろう。ジェラルドのファルセットも一緒に歌いたくなる。

-ソウル・モード-

⑤「Fall Back」からは、ソウルモードに回帰する。その中でも⑥「Deep As It Goes」は、イントロからヘヴィーなギターが入り、まるでアイズレーズ。アーニー・アイズレー(Ernie Isley)の弾き方とは違うな[*1]、ということはわかるのだが甘美の世界観そのもの。ギターが(鳴くではなく)泣く、というフレーズはこういうところをいうのではないだろうか。
 三連系のスロウ⑧「Sweeter」は、王道。いつもどおり正統派が1曲収められている。もちろんジェラルドひとりでも良いのだが、パパとの共演作でも取り上げてもらいたかった。ヴォーカル重視のこの曲は2人で吠えまくっても面白さがあったかもしれない。

-オハイオ愛-

スレイヴ(Slave)の80年の作品「Let's Spend Some Time」[*2]のイントロ部分を大胆にサンプリングし、原曲よりもBPMをあげて繰り返す⑪「M'Lady」は新たな試み。このイントロの部分のみを切り取ってくるセンスはエドウィンによるものかと推察するが、きちんとオハイオの先輩のものを持ってくるのも含めてさすがと唸ってしまう。

-数字もきちんとあげている-

R&Bチャートはもちろん首位奪取、ビルボード200でも2位を記録。シングルとして①はR&B21位、③は同31位。まだまだこれからも充分に現役だったジェラルドの急逝が、ただただ残念でならない。
(2021.02.25)

[*1]ギターを弾いているのはレイモンド・ウィリアムス(Raymond Williams)。アーニーのギターは、音が平坦な印象があり、それが味。決してうまいとか下手とかそういうことではなく。
[*2]スリーヴには「Let's Spend Time」とあるが、「Let's Spend Some Time」が正しい。

List

TOPへ