-このポップス感は現代シーンでも再考されるべき-
AOR愛好家にもこの作品は受け入れられている模様。確かにジャケットにもそんな雰囲気が出ている。80年代中期のクワイエット・ストームの波は、AORとR&Bが最接近していた頃。メロウ・スムースという言葉の似合う本作が取り上げられたのも当然といえるかも知れない。それゆえに、「白すぎる!」と思われる方も多いのではないだろうか?(当時のモータウンの方針も含めて)それだけで聴かないのはもったいない内容が詰まっている。2010年現在、再びポップスに寄っているブラック・ミュージック・シーンを鑑みても、再度聴いておきたい1枚である。現在流行しているニーヨ(Ne-Yo)やスター・ゲイト(Stargate)らのそれ(ポップに寄る傾向)とは違い、とにかくお洒落に仕上げられていることがわかるはずだ。
-白眉-
まずは何は無くとも⑥「Feels Good To Feel Good」!!これを語らずしては前に進めない。イントロの鳥のさえずり、キラキラした雰囲気など、アニタ・ベイカー(Anita Baker)が歌いだしてしまいそうなクワイエット感。そこに決して旨いとは言えない、不安定なギャリーの声が乗っかり、それをエモーションズ(The Emotions)のシーラ(Sheila Hatchinson)が包み込む。一聴したら忘れらないサビのメロディとリリック。この曲こそクワイエット・ストームの完成形と言えるのではないだろうか。海が見える、もうすぐ落ちてしまう太陽が見える夕焼けのバー。カクテルグラスを傾けて…。日本ならオメガトライブが流れてるような…(時代背景も含めて)。
-アダルトな都会の夜-
そんなキラーチューンの後の⑦「You Don't Even Know」もアダルトな雰囲気が満載。ギャリーのファルセットも甘くささやく。さらに進めた⑧「Lonely Night」ではジェラルド・アルブライト(Gerald Albright)のSAXの音色が憂いを感じさせてくれる。とにかく都会の週末の夜、男と女…。まさしくクワイエット・ストームそのもの。ちなみにクレジットを確認すると、(この曲かどうか定かではないが)ジェラルド・アルブライトがベースも弾いてるというのが珍しい。
-さわやかすぎる“メロディ力”-
ほかにも⑥の次に人気がある①「Do You Have To Go」や、これまた海辺が似合ってしまう②「Torch For You」、爽やかすぎる③「Running Away」など、とにかくメロディが美しく、それでいてお行儀が良いだけでなく、飽きが来ない。当時のアレンジだから作られた音も薄っぺらく聴こえてしまうかもしれないが、それを軽く乗り越えられる“メロディ力”がみなぎっている。
最後の2曲。⑨「Can't Get Enough Of Love」⑩「Love Makes It Right」はむりやりアップを入れた感じ。う~ん、これは要らなかったかなぁ~。
-キラキラしたシーンはモータウンの戦略だった-
モータウンの戦略であった、白人を意識したマーケティング。この筆頭として挙げられるアニタやホイットニー(Whitney Houston)。そんなキラめいた時代が終わろうとしている87年に残されたこの作品は、そのイメージを語る1枚として語られていくべき作品だろう。
(2010.08.17/2014.11.25)