-半信半疑-
HMVのWebページの案内には、下記のような記述がある。
インディ界のRonald Isleyともいうべき新進のR&BシンガーEric Idohl登場!!!久々に現れたこれぞ無名の有望株、おそらくこれがデビュー作。インディ界のRonald Isleyというのはけっして大げさな表現ではなく、この新人を紹介するにはうってつけの表現。聴いていただければ多くの方が納得していただけると思います。(以下略)
作品を聴く前にこれを読んでしまったので、大きな先入観が生まれてしまった。こんなコピーが踊っているのに聴かないわけにはいかない。大げさなのか、本物なのか…。再生するまでの緊張感を思い出す。
-確信犯-
いきなり小さい子の声が入ってくる①「Life(Interlude)」という出だしは、ちょっと反則な気もするが、それに続く②「Breathe」を聴くと納得。「Life」人生が始まり、そして「Breathe」呼吸をする。ただし、②はどちらかというともっとナチュラルな、大地の呼吸といった佇まい。アコースティックギターのコードを変えるときに生まれる、弦がこすれる音と、SEで入っている小鳥の声の調和が見事である。エリック自身が元々ギタリストであることが浮き彫りになっている。[*1]
ここまで聴くと、アイズレー(The Isley Brothers)感は!?と、まだ気づかされない。しかし、次のソフトファンク③「She So Fly」から聴かせてくれるエリックのファルセットの使い方がロナルド・アイズレー(Ronald Isley)と酷似しているのである。それを感じられるのは④「Get To Know Ya」、とくにイントロの「ウェルウェル~」である。もはやこれは確信犯なのだろうが、アイズレー・ファンとしては、喜ばずにはいられないほどの完成度である。楽曲もアイズレーズの「At Your Best(You Are Love)」のようにシンプルな音作りで、優しいメロディがじわっと心に染みこんでくるようである。
続く⑤「If He Don't Know」は、アイズレーの真骨頂である妖艶なものに寄せてきている。ギターは、こちらも確信犯でアーニー(Ernie Isley)の直音的な音色を奏でる。弾いているのは、シカゴのギタリストであるキース・ヘンダーソン(Keith Henderson)。R.ケリー(R.Kelly)の「BumpN' Grind」でもその腕を披露している人であり、そこで大きくうなずけるわけである。この作品でキースがギターを披露しているのはこの⑤だけであり、まさしく!な人選がたまらない。
-オリジナリティ-
上記2曲が特にアイズレーを感じるわけだが、けっして真似るだけではない。前出のとおり、もともとギタリストであることからか、全編を通してアコースティックギターが目立っている。筆者はフォーキーなソウルはやや苦手な方になるのだが、決してそれを感じさせない絶妙な配分が心地よい。
タイトル曲の⑦「4 The Grown & Sexy」はリフが繰り返されつつも単調にならず、またタイトル通りヴォーカルがセクシーに迫ること、⑧「How Can U Say」もイントロで「ウェルウェル~」を放ち、どちらもヴォーカルに心を持っていかれたりと、あくまでギターは引き立て役。⑨「My,My,My」[*2]はサビの部分をつま弾くイントロから始まるわけだが、その裏にポエトリー的に低い声を忍ばせていたりと、細部に粘着質な仕掛けが施されている。
これらに続くシンプルな⑩「Lay U Down」に関してはアコースティック・ソウルそのものなのだが、仕掛けを感じない分直接響いてくる。ここにアルバムを曲順で聴く意義を感じる。
-シカゴという土地がなせるわざなのか-
冒頭で触れたとおり、インディ発の作品である。プロデュースはエリック本人と、スパイク・レベル(Spike Rebel)であり、ほとんどのプロダクションをスパイクが担当している。ノーザン・イリノイ大学(Northern Illinois University)でジャズの学士号を取得しているスパイクは、ジャズ・ハウス畑であるのだが、ここではきちんとR&Bの作品として整えてくれているところがうれしい。1曲くらいはプロデューサーの得意分野に引き込んだ曲がありそうなものだが、それを封印しアルバムの世界観を守ってくれている。これはプロデューサーとして大切なことだろう。
いずれにしても、これだけローカルな作品なのに、高い完成度を誇る。これがシカゴという土地が持つ底力なのではないだろうか。
(2021.06.28)
[*1] とはいえ、ここでギターを弾いているのはスパイクである。
[*2]ジョニー・ギル(Johnny Gill)のそれとは同名異曲。