-師匠に挙げたのは…-
俺の音楽スタイルに最も影響を与えたアーティストと言えばR・ケリーだね。 彼はただただ素晴らしいアーティストであり、素晴らしいソングライターなんだ。[HMV Webより]
90年代から変わらぬ活動を続けるR.ケリー(R.Kelly)を鑑みると、もはやこう言い切るアーティストが登場することも当たり前だと思われる。筆者も、いくらリリックの卑猥さを批判されようとも、あの音世界に魅了された一人である。その音を継承するアーティストが多々活躍することは、率直に歓喜の声を挙げたい。
-出色のバラード-
本作品は3rd作であるが、それまで筆者はデュアンの存在すら知らなかった。デュアンを知ったのは、(多くの方がそうであろうが)西崎信太郎氏のWebによるものだった。⑧「Late Nite Rendezvous」が紹介されていたわけだが、”切ないピアノの旋律“、“ささやくところと熱く歌うところの抑揚”、“出すぎないアコースティック・ギター”など、まさに筆者のツボ。ど真ん中のストレートであった。こういった楽曲が、この時代にリリースされたことへの歓喜は忘れられない。R&Bはまだまだ終わってなんかいない。個人的には2015年の最優秀楽曲となった。
-作品全体としてソウルしているのか!?-
とはいえ、そのように期待値を上げすぎるとアルバムが…。期待を外れたアーティスト[1]が多数いることも事実。果たしてデュアンはどうなのだろう…。楽曲名を見ると⑥「New Dick」やら⑨「Make Up Sex」だの、師匠の真似してほしくないサイドの匂いがしてたまらないのだが…。
イントロあけの②「FaceTime feat. Siri」が電話音から始まる。音声アプリ”Siri”を使ったということも掛け合っての演出であろうが、古いソウルファンには嬉しいものである。アプリのヴォーカルという情報に危惧したが、全く違和感がなく入り込む。エマージェンシーな雰囲気を創り出し、ストリート感を盛り込むが、これも程よく使用されている。続く③「Blind feat. CashFlowDolla」は、まるでアーニー・アイズレー(Ernie Isley)のような泣きのギターから。フィーチャーされているラッパー[2]が存在する、ということで気になったが、楽曲の雰囲気を壊すことなく控えめに。この時点で冒頭の心配は取り越し苦労に終わった。
-スロウが魅力-
デュアン本人も、プロデューサーのJ・ダヴ(Johnathan “J-DAV” Davenport)も、“繊細なシンプル・スロウが魅力”ということをわかっているのだろう。④「LifeTime」⑦「Slow」の2曲が印象に残っている。決して幸せな雰囲気がそこにあるわけではないが、内に秘めた深い気持ちを感じ取れる。
-流行りの音を散りばめつつ、やりたいことをやる-
全体を通して聴くと、おおよそ流行とは無縁の造り。前出のとおり、幸せな雰囲気はあまりない。音作りは違うが、ブルースと言ってしまいたくなるような哀愁を感じさせる。
しかしながら、打ち込みなどはやはり現代的。その現在と過去のバランスが、壊れないバランスに制作しているところが、さすがJ・ダヴ!ということなのだろう。後見人とも言える彼のもとでの作品リリースを、今後とも期待したい。
(2016.09.03)
[1]筆者的に、”ヒップホップに寄りすぎてしまった”という意味であり、単純に否定するものではない。そちらに行った方が良いという方も多数いらっしゃることだろう。
[2]キャッシュ・フロー・ドラー(CashFlowDolla)というメンフィスのラッパー。やはりテネシーでは有名で、ソロ作もリリースされている。