1. 『Emosoul』
  2. D.J.ROGERS,JR.
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『Emosoul』(2002)2002
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Review

-お蔵入り-

この作品はお蔵入りになっている。キダー・マッセンバーグ(Kedar Massenburg)を殴って、そのリリースを止められた、なんていう武勇伝!?も残っているのだが…。それにしても、この時期のキダー(モータウン社長の頃)はお蔵入りが多すぎる…。社長に就任した際は、ディアンジェロ(D’Angelo)エリカ・バドゥ(Erykah Badu)のように、才能のあるアーティストの発掘を中心に行ってくれる人物であるだけに、広く発信してくれる人物だと思っていたのだが…。

そのようなことがあったため、流通は少ない。だが、すでにプレスはされていたため、流失。ここ日本でもこの作品を聴くことが可能となった。これには大阪堺のサムズ・レコードの功績ともいえるだろう。

-南部の香りが漂うギターの音色-

まずオープニング①「Alone」のイントロのギター。これだけでもアルバム全体の雰囲気が伝わってくる。歌い出すその渋声。イナタイ感じがソウル魂を燻られる。そしてそのまま②「Wanna Be In Love」への繋がるのだが、そこでもギターの音色が心を唸らせてくれる。レイドバックしたそのグルーヴをゆっくりとつなげていく。

この2曲では、“ギターの使い方にブルースを感じつつも出しゃばらない”という絶妙なバランスが施されている。これを手掛けたのは、が、この後メアリー・メアリー(Mary Mary)などで手腕を発揮することになるビリアル兄弟(Charlie & Kenny Bereal)、そしてウォーリン・キャンベル(Warryn Campbell)である。ともにゴスペルからの影響が強い制作陣に、両曲ともにエリック・ドーキンス(Eric Dawkins)がバック・ヴォーカルで参加する。しっかりとサイドまで固められている。

-他の制作陣もしっかりと-

他の楽曲のプロデュースは、ジェイミー・ジャズ(Jamey Jaz)③「Lonely Girl」オールスター(Allstar)④「Don’t Miss The Good Stuff」⑧「Where Is The Love」、クレモンス・ブラザーズのネイト・ラヴ&ビッグ・マイク(Nate Love & Big Mike for Clemons Brothers)⑤「Smile」マーク・バトソン(Mark Batson)⑦「Please Don’t Leave」チャッキー・トンプソン(Chucky Thompson)⑩「Send Me An Angel」ヘヴィ・D(Heavy D)⑥「Rather Be In Love」⑫「You And Me」と、錚々たるメンバーが同じ船に乗り込んだ。しかし、どれも頭でっかちになることはなく、全てが良い方向で溶け込んでいる。この全体を通してバランスをとるという難しさを、もしもD.J.ロジャースJr.本人がこなしているとしたら、その才能は血筋というものになるのだろうか。

ジョー・サンプル(Joe Sample)の「Night Flight」を使った[1]、出だしをまるまるアル・グリーン(Al Green)「Simply Beautiful」から引用した[2]などのセンスとリスペクト。プロデューサー陣の発案なのだろうが、しっかりと自分のものにしているところが恐れ入る。

ほぼ全曲お気に入りなわけだが、選ぶのであれば⑧「Where Is The Love」⑬「Wonderful Beautiful Amazing」ということになるだろうか。オールスターの手掛けたはまさしくジャヒーム(Jaheim)!と叫んでしまいそうな、後ろのコーラス隊の映像が浮かんでくるライヴ感のあるグルーヴ。隆盛期のモータウンがアップデイトしたら…。そんな佇まいである。またで見せるインディア・アリー(India Arie)とのデュエットは、 ダニー・ハサウェイ(Donny Hathway)&ロバータ・フラック(Roberta Flack)を彷彿とさせる。この浮遊感のあるスロウは、インディア嬢の得意とする世界観なのだろうが、こちらも主役の座は譲渡していない。

-メロディを大切にするアーティストたち-

プロデューサー陣以外のゲストも本当にツボを押さえている。前出のとおりにはインディア嬢を、ジェイミー・ジャズらしさをそのコーラスで感じさせてくれるにはラーサン・パターソン(Rahssan Patterson)を、そしてにはバッド・ボーイからカール・トーマス(Carl Thomas)を迎えている。いかにメロディを大切にしているかということを理解するまでに時間はかからない。

-市場価格と作品価値-

お蔵入りしたことだけで作品の商品単価が上がっているという作品も多数あるわけだが、この作品については充分に内容が伴っている。聴き込めば聴き込むほど、その深みが理解できるはずである。一度だけ味わうのはもったいない。何度も何度も噛みしめて聴きたい。

幻と言われたジェフ・レッド(Jeff Redd)の1st『Down Low』も再発された。本作も是非多くの人に触れてもらえる機会が生まれることを期待したい。

(2015.08.05)

[1]ジョー・サンプル以外にもエディ・ホールマン(Eddie Holman)のヒット「Hey There Lonely Girl」(達郎さんのカヴァーでおなじみ)の詞を引用している。とはいえ、オリジナルはルビー & ザ・ロマンティッ クス(Ruby & The Romantics)の「Hey There Lonely Boy」なのだが…。こういった場合、著作権ってどうなるのでしょうか??

[2]アル・グリーン以外にもジョージ・クリントン(George Clinton)の「I’d Rather Be With You」を引用している。

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