-まろやかに発酵するワインのように-
じんわりと、柔らかくやってくる衝撃波、とでも比喩しようか…。いわゆる“噛めば噛むほど…”というやつ。一聴した際にも「いいな」と感じたわけだが、聴けば聴くほど染み込んでいく。そんな作品である
1st『Strawberry Lemonade』でも同様の世界観を醸し出していたダーネルだが、この2ndでは更に深く、それでいて重たくない、押し付けないという、その人の品格が成熟していないと収穫できないのではないか、と思ってしまうほどの”まろやかさ”が伝わってくる。
-アルバム・タイトルに納得-
全ての楽曲がイイ!と言ってしまいたくなるほどの統一感がある。そう言った場合でも、極力お気に入りの楽曲を絞り込むように、左記の楽曲名に黄色をつけていくわけだが、この作品に関しては絞りこめなかった。
イントロからソフトに入り込んでいく。ミディアムなリズムにピアノとソフトなヴォーカルを重ねていく②「Let’s Run Away」を聴けば、その世界観をすぐに理解できる。なるほど、アルバム・タイトルが『Smooth Soul Cafe』なわけだ、と。続く③「Please Believe Me」ではどこか物悲しいメロディが雨のシーンを連想させる湿度の高いミディアムである。④「Baby Don’t Leave Me」では今まで主張していなかったギターのリフが印象的。この3曲までですっかり魅了されてしまった。
-似て非なるもの-
巷では確かにブライアン・マクナイト(Brian McKnight)に似ているといわれる。しかし、筆者はもう少し距離があるのではないかと思っている。わかりやすくいうと、ブライアンよりダーネルのほうが、“エロい”ということ。これは個人的には非常に重要な部分である。ブライアンは独特の世界観があり、存在感があり、もちろん筆者も好きなアーティストであることには変わりない。ところが、どこかに味付けを求めてしまいたくなる時がある。ブライアン本人もどうやらそう思っているようで、それが「iF Ur Ready To Learn」を生み出したのではないだろか[1]。
-細かい職人気質が見える-
話を本作に戻そう。多少の緊張感を持たせたアップ⑤「Brand New」に続くのは②と同路線と言える切ないスロウの⑥「Baby Jane」。後半に入り込むホーンの音色がさりげなくもの悲しさを演出。ギターでのレトロ感に哀愁を感じる⑦「So Much」とともに、音を織り込んでいく職人のようであると感じた。
スムース“ジャズ”カフェとでも言ってしまいたくなる⑧「After Dinner」⑨「After Dinner reprise」⑩「Still I Think Of You」を挟んでは幸せフレーヴァー溢れる⑪「You Took My Loneliness」⑫「Joy」。⑪ではポップへ、⑫では、タイトルでわかってしまいそうだが、ゴスペルの素養もチラリと。
カフェでのライヴ風に、エレピのみでダーネルが歌う⑬「My Favorite Person」には、敢えてカフェでの雑踏を練り込んでいる。こういった細かい配慮を喜んでしまうのは、筆者が細かい人格だからだろうか。こういった終わり方[2]は大好きである
-ブルー・アイド・ソウル・ファンなら-
歌い倒すわけではなく、あくまで声をメロディに乗せる。ひたすら優しく。彼自身のフェイバリット[3]を鑑みたときに、ブルー・アイド・ソウルやAOR愛好者にもながく聴いてもらえる作品であることに疑いはない。
(2016.11.23)
[1]2012年に突如「アダルト・ミックステープ」なる構想を打ち出したブライアン。“冗談だよ…”と言って事態を収束させたが、本心はどうだったんだろう。ブライアン・マックナイトという看板に苦慮したのかな…(“bmr”参照)
[2]日本盤にはボーナス・トラックとして、1stにも収録されていた「Good Love」を最後の曲として収録
[3]Biography参照