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『If These Walls Could Talk』(2009)2009
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Review

-ニュー・クラシック・ソウル!?-

もし、1996年にこの作品が出ていたら、メジャー配給となっていただろう。ニュー・クラシック・ソウルの追い風にのっていたことは間違いなく、またそれに応えられる実力を備えているのが本作の主役、ダリエン(Darien)である。

常々記しているが、白眉な1曲が存在するアルバムよりも、捨て曲なしな作品が大好きである。全体的には、鍵盤の音が印象的であり、その割にスロウが少ないという面白い作りになっている。

-昔からの理解者-

ハンド・クラップとイナタイ感じのギターが嬉しい①「Just Can’t Wait」。手がけたのはジェレミー・メレジ(Jeremy Mage)というキーボーディストらしいが、鍵盤を弾く人が書いたとは思えないラフなつくりになっている。そこが聴き手を入りやすくしており、この楽曲を冒頭に持ってきた理由なのではないだろうか。

優しく可愛らしく魅せる②「The Road」では、後半少しだけみせるダリエンのファルセットがキキドコロ。2コーラス目の後のブリッジ部分の、3回伸び上がるファルセット。この辺が筆者のツボである。このと同様な雰囲気を見せる④「Sail Thru」⑭「If These Walls Could Talk」を手がけているのが、ダリエンを昔から知るマーカス・ファゲイト(Marcus Fugate)というピアニスト。がデビュー前のダリエンの仕事であるサウンドトラック『25 Strong』に、がUKのコンピレーションアルバム『This Is Soul 2006』に収録されていたことを鑑みると、古くからの友人のようである。タイトルトラックであるは、アコースティック・ギターの音色がやさしく、歌いだしなどはリンデン・デヴィッド・ホール(Lynden David Hall)を思い出してしまった。スロウのままでも聴きたかった気もするメロディの美しい楽曲となった。

⑤「Composure」⑥「My Door」という、これまた鍵盤が元気に聴こえるミディアムは、ブルックリンに在住しているというフィリップ・リーズ(Philip “Philosophy”Lees)によるもの。友人づたいで知り合ったとは思えないほど、この作品のことを理解したプロダクションになっている。ちなみに彼はUKアーティストが歌いそうな⑬「All Kinds Of Things」もプロデュースしている。

-中毒性のあるビートと正統派と-

インタールードの⑨「WSRD 33.3 FM」を挟むとヒップホップの影響を前面に押し出す。アリシア・キーズ(Alicia Keys)の方法論をなぞっている⑩「Gone」、張り詰めた緊張感がたまらない⑫「Saturday」ともに手がけているのはノエル・ザンカネラ(Noel Zancanella)。彼の手がけた楽曲が、この作品のスパイスとなっているのは明白だろう。

ミステリアスな雰囲気を軽くあしらい、マックスウェル(Maxwell)のような空気感が魅力な⑪「Showya」⑯「Can’t Hide(Bonus Track)」を手がけたのはモーガン・ハウエル(Morgan“Soul Persona"Howell)。特にの中毒性のあるシンセ・ベース音。もしかしたら好き嫌いが分かれてしまうかもしれないのだが、これまたハマルと抜け出せなくなってしまう。

正統派なバラードを提供したのは、あの有名プロデューサーと同姓同名ながら別人のテリー・ルイス(Terry L.Lewis)⑮「Seasons」は歌いだしからスティーヴィー(Stevie Wonder)の影響モロ出しで、「あぁやはり王道も好きなのだな。」と安心させられた。やはりダリエンも「歌える」ミュージシャンということが良くわかる。

-アルバムを通して聴きたい-

その他のセルフプロデュース作も心地よく、非の打ち所は本当にない。作品全体を最初から最後まで幾度となく聴いたのだが、なかなかこういった作品には出会えない。そんな「アルバムをひとつのキャンバスに例えた芸術」を今後も期待したいと思う。

(2012.12.17)

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