-ほぼ自作のソロデビュー作-
ティーズ(Tease)脱退後にソロ活動に移行したチャッキーのデビュー作。もともとティーズへの参加もレックス・サラス(Rex Salas)[*1]の後釜だったということを考えれば、キーボーディストとしての腕も秀逸なのだろうが、彼の才能はそこに留まらず、“音楽を作ること”に長けていたことがよく分かる作品になっている。
2曲(②③)のみをドネル・スペンサー・Jr.(Donell Spencer Jr.)[*2]と共作しているが、他はほぼ全編を自分自身で仕上げており、自身のファースト・ネームを冠している理由もよく分かる。
-いきなりの大ヒット-
デビューシングルとなった②「Turned Away」は、いきなりR&Bチャートを登頂。ニュージャックの中身をものすごくポップに仕上げた1曲は彼の代表曲へと昇華した。張り巡らされたパーカッションの音で明るさを醸し出した雰囲気の中に、ニュージャックのビートが乗っかってくるという、受け入れやすいポップだけど踊れる!という絶妙な味付けになっており、このあたりが万人に受け入れられたの原因といえるだろう。その証拠に、全く同じ方法論で作られ、②と同じ年にリリースされたトゥループ(Troop)の「Spread My Wings」も同様にチャートを制している。89年のチャッキーはまさに時の人になった。
その後シングルになったのは、堅いビートが重厚感を生んでいる①「(Don't U Know)I Love U」(R&B4位)と、80年代ファンクのような⑥「Touch」(R&B13位)で、どちらもアッパーなダンスチューンであった。①では時折みせる聴きやすいメロディが印象的なのだが、⑥になると、その印象は薄れる。②がいかに完成度が高いかは、これらを聞き比べただけでも明白である。
なおアルバムには②のミックスが2ヴァージョンも収録されている。パーカッションが目立つ⑪と、ベースの跳ね具合、チャカポコギターの入り込みのある⑫とどちらも意義あるミックスになっている。
-チャッキーの真骨頂-
チャッキーの音作りの才能を感じるのは、レゲエ+ニュー・ジャック・スウィングを見事に埋め込み、明るさ(=ポップさ)を目立たせながらもかっこよく仕立てた④「Hotel Happiness」であろう。この融合はともすれば、ダサくなってしまいそうなのだが、その心配など全く感じさせない仕上がりである。底抜けに明るい感じが、夏にはまる。
また次作でもみせるプリンス(Prince)の影響が垣間見られる⑦「That's My Honey」や、ファルセットでうたうミディアムの⑧「Let Me Love U」など、ただのファンクやニュージャックで終わるのではなく、どこかにポップで親しみやすさを表現しているところがまさにチャッキー節といえ、このあたりに器用さを感じ取ることができる。
-スロウは目立たず-
スロウは音数少なめの⑤「Heavenly Father」と、ジェラルド・アルブライド(Gerald Albright)をゲストに迎えた⑨「Oh Lover」。しかしながら、アップほどの印象が残ることはなく、やはりチャッキーはダンストラックが得意なのだろうと改めて思わされた。悪い意味ではないのだが、シンガー<クリエイターというような公式を頭に思い浮かべてしまった。
-日本ではそんなに・・・!?-
今回の執筆に当たり、さまざまなWebサイトを確認したのだが、前出のとおり数字的にも成功しているにも関わらず、以外にも日本語でReviewを書いている方が少ないことに気がついた。チャッキーのその後の功績などを考えると、もう少し人気があっても良さそうな気がするのだが・・・。
(2022.07.30)
[*1]1962年生まれ。既出のとおり、ティーズのキーボーディストとしてデビュー。のちにボーイズ・Ⅱ・メン(Boyz Ⅱ Men)やアイズレーズ(The Isley brothers)らのプロデュースを手がける。日本人では障子久美の名作『Because It's Love』に大きく関与している。ジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)のライブの音楽監督としても有名。
[*2]ジェラルド・アルブライトやフレディ・ジャクソン(Freddie Jackson)らを手がけた80年代後期~90年代初期にかけて活躍したプロデューサー。ミキ・ブルー(Mikki Bleu)が手がけたことで有名なマック・バンド(Mac Band)の作品にも関与している。