1. 『Two Wrongs Don’t Make It Right』
  2. CHAZZ MAC
  3. artist
  4. privatesoulmusic
『Two Wrongs Don’t Make It Right』(2015)2015
celetia-runaway_skies

Review

-ファルセットはお好き!?-

古くからソウルの世界には、ファルセットを魅力としたシンガー、グループは沢山存在する。アイズレーズ(The Isley Brothers)ロナルド(Ronald Isley)アース(Earth,Wind & Fire)フィリップ・ベイリー(Philip Bailey)マイケル(Michael Jackson)だってそう。プリンス(Prince)も「The Most Beautiful Girl In The World」なんかで聴かせてくれた。その魅力を存分に活かし、パッケージしたのがこの作品である。

そもそも本作の主人公であるチャズであるが、デビューからファルセットばかりで歌っていたわけではなく、ソロ1st『Not Tonight』は、ほぼ全編地声。決して歌バカという風情ではないが、こちらの内容も素晴らしいものだった。どちらかというと本作よりも夜が似合う作風で、こちらにもっと寄せてもいいものになっただろうが、今回はレトロソウルとでも言おうか。そちらに舵をきっている。

-この時代によくぞリリースされた-

オープニングの“シャラララ~ン”というパーカッションの音と、歌いだしからファルセットで軽く叫ぶ①「Two Wrongs Don’t Make It Right」。60年代~70年代への回帰。酔いしれるのは間違いない。先入観なしにこの1曲を聴いて、“このアルバムは全編を通してこの雰囲気で”という期待と確信が同時にやってくるような気がしたわけだが、そのうれしい予感は的中する。

おなじみグローヴァー・ワシントン・ジュニア(Grover Washington Jr.)の「Just The Two Of Us」を多分に借用した②「Baby Come To Me」は、ネタからして外れるはずもなく、今回の作品の趣旨を表現したものになっている。ジャズ的なピアノとブリッジのギターでエッジをきかしているものの、その刃先は丸くなっていて、とがっているのに優しい。

①②で聴かせたファルセットから地声になる③「Love Crazy」と同様な雰囲気のため、全く違和感なし。失礼ながら、ここで1stのころから比べると“歌がうまくなったな”と感じてしまう。

④「Lovin You」⑤「Baby」も、良い意味で懐古趣味。どちらもサビのコーラスに多少の拙さがあるものの、それも味。楽曲の出来がその不安を凌駕している。

-しっかり甘茶してます-

ここからはお待ちかねのスロウタイム。優しいサビに至るまでにファルセットで焦らす(それが嬉しい)⑥「Pillow Talk」、地声の主旋律にファルセットで謝る⑦「Baby I’m Sorry」、アコースティックギターが準主役でありながらあくまでわき役を演じる⑧「Let’s Come Together」など、どれも期待を裏切らない。

-世界観を壊すことはなく-

ゲストを迎えた⑨「Are You (feat.LEYLA)」は、チャズも歌っていないし、憂鬱な雰囲気であるため、ある意味異色と言えるかもしれない。また、⑩「Do What You Want To」⑪「Hesitate( feat. PLAYMAKA)」も途中でラップが入ってきてはいるわけだが、いずれも作品全体の世界観を壊しているわけではなく、上手く同居していると言える。このバランスは非常に難しいと思うのだが、どれも古いソウルが見え隠れしているところが上手く作用しているのだろう。きちんと溶け込んでいる。

-情報の流通もきっちりあった!(喜)-

発売当時、歌ものR&Bが不遇の時代に、インディながら日本でも大手レコード店(HMV、Tower Records)できちんと紹介されたこと。これがなにより嬉しかったのを思い出す。こんな全編を通して安心して聴ける作品が、配信でもいいので多く流通し、隆盛を極める日の到来を期待したい。

(2020.10.15)

List

TOPへ