1. 『Out Of The Blu』
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『Out Of The Blu』(1995)1995
out of the blu

Review

-特徴のあるギター・サウンド-

トニーズ(Tony Toni Toné)の課外授業3部作のうち、一番最初にリリースされたのがこの作品である。プロデュースはドウェイン(D’wayne Wiggins)。聴いていけばラファエル(Raphael Saadiq)でも、ティモシー(Timothy Christian Riley)でもない、紛れもなくドウェインの手によるものだとわかるほど、ギターが歌っている。

-異なる声質-

まさしくドウェイン的な、良い意味でひねくれたメロディと歌うギターが融合した①「My Ol' Lady」から始まる。まさしくトニーズの音なのだが、それにのっているヴォーカルの種類が違う。決してラファエルの歌声を否定するわけでは[*1]ないのだが、本格的に歌うブルーの声質が安定感をもたらす。もっともっと叫んでもいいぞ!っと思ったのは筆者だけではないはずだ。

-どうしても期待するスロウ-

そんな歌える声にのるトニーズ・サウンド。やはり期待するのはスロウになるのだが、意外にも作曲がトニーズ一派ではない楽曲が白眉なものになっている。92年にインディから、アントニウス(Antonius Thomas)名義でリリースされた⑧「Young Doctor Feelgood」をカヴァしているのだが、本家を軽々と跳躍。90年代の名スロウとしてこの楽曲を推す方も多いのだが、筆者も同様[*2]である。コーラスを務めるのは、ドウェインも作品を提供しているオン・エッジ(On Edge)の94年のアルバムで、「69 Wayz」というファンキーな楽曲を共作したキンバリー・アームストロング(Kymberli Armstrong)。彼女の主役をひき立てつつも、存在感のあるコーラスは、楽曲の完成度を上げている。

-それぞれのキキドコロ-

この曲以外のスロウにもキキドコロがきちんと用意されている。タイトル曲となった⑤「Out Of The Blu」は、ブラックストリート(Blackstreet)の「I Wanna Be Your Man」を口ずさみたくなるようなミディアム。全編にフリューゲル・ホーンが配されているのだが、最後のチャカポコ・ギターを加えたトランペットのソロの部分は、インコグニート(Incognito)、または数原晋さんのようで、爽やかな風を運んできてくれる。

タイトルから期待されるとおりのねっとり系スロウである④「Pillow Talk」は、サビの背景に打ち込みではあるものの、ストリングス的な音や、歌いまくるギターが、クール・アンド・ザ・ギャング(Kool & The Gang)「Summer Madness」風。もっとエロく寄せてもとつい期待するのだが、このくらいの方が上品で良いのかもしれない。楽曲の最後に前出のキンバリーとの絡みが入るのだが、これはもっと長く聴きたかったと思う。

もっともトニーズ的だと感じたのは、トニーズの「Anniversary」の世界観をそのまま持ってきたような⑪「Clap Your Hands」。「Anniversary」ほど大きく広がっていく様はないのだが、どことなく哀愁を感じ、 ストリングスを絡めていくところは酷似している。ブルーのどことなくさみしげなオーラをもった歌い方との溶け合いがキキドコロである。

-イニシアチブはお兄ちゃんが握っていたのでは-

前出のとおり、課外授業3部作と呼ばせてもらっているが、そのうち一番トニーズに近いのがこの作品ではないだろうか。つまり、トニーズの操縦桿を握っていたのは、ラファエルではなくドウェインだったのだろうと想像してしまう。ラファエルが脱退したのは、そのあたりも関係したのかなとさらに勝手な想像は膨らんでしまう。

(2021.12.03)

[*1]否定するよりむしろ大好物である。トニーズのライヴを見に行った際、「ラファエルがいないとなると、ドウェインが歌うのかな…」とナヨ声が聴けないことを心配した思い出がある。ステージにエイマー・カイル(Amar Khalil)が登場し、「It Never Rains(In Southern California)」を、コーラスにテリー・エリス(Terry Ellis=ex En Vouge)を従えて歌い、「ラファエルやん!」と思ったステージを忘れることはない。
[*2]当サイト『Nice'n Slow Vol.9』にて選曲。

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