-2つの顔をもつ男-
93年発表の3rd。92年9月にトレイシー(Tracy)と結婚し、心身ともに充実していた時期の作品。当然ながら、作品も力のこもったものとなっている。童顔氏のアルバムでは、どれもそうなのだろうが、ここでも、“シンガー”と、“プロデューサー”ベイビーフェイス(Babyface)が共存する。
-シンガーとして-
まず、“シンガー”ベイビーフェイスだが、1st『Lovers』でも「You Make Me Feel Brand New」をカヴァーしていたが、今回はジョー・コッカー(Joe Cocker)のカヴァー⑩「You Are So Beautiful」を選択。あまりにも有名すぎるこの曲を歌うということは、よほどの自信がないとできないはずだ。時に甘く、時に力強く歌い上げる。また、③「Never Keeping Secrets」では、そこに彼の甘い声がないと、悲壮感が曲全体を覆ってしまい、ただただ暗い雰囲気になっていたに違いない。表情を変えてしまえるほどの甘い声がたまらない。
-プロデュースの顔-
もうひとつの顔、“プロデューサー”ベイビーフェイス。まず全体的な構成から。ミッド~スロウにまとめられており、一貫性を感じさせる。各曲も②「Lady, Lady」、④「Rock Bottom」なんかは、一聴しただけで彼のナンバーだとわかり、かつ彼にしか表現できないものである。⑪「Well Alright」では、1stに収録の「If We Try」に独特の切なさを味付けしたような仕上がりで、アルバムを締めくくるにふさわしい。また、⑦「When Can I See You」は、アコースティック・ギターの生音で勝負するという、当時としては斬新な発想。のちに生音への回帰を求められるR&Bの世界に一石を投じた形となった。
-ニュー・クラシック・ソウル前夜に-
93年に発売されたこの作品だが、音作りを考えると96年に発表されたと言われても全く違和感がない。童顔氏は、先の読める天才なのだろうと改めて認識させられた。
(2005.05.06)