-どれも素晴らしかった、トニーズの課外活動-
オーティス&シュグ(Otis & Shugg)のレビューの際に、トニーズ(Tony Toni Toné)の放課後3部作[*1]はどれも甲乙つけがたいと記したとおり、このアートゥン・ソウル(Art N' Soul)が残した唯一のアルバムも完成度が非常に高い。プロフィールのページで触れたが、プロデュースは、ティモシー・クリスチャン・ライリー(Timothy Christian Riley)が務めている。
-強烈なシングル-
アルバムは、先行シングルだった①「Ever Since You Went Away」から始まるわけだが、このミディアムは強烈で、しばらくはこの楽曲ばかりを聴いていた。オークランド・ソウルというよりは、もっとオーソドックスなR&Bと言えるわけだが、トレイシー(Tracy=Sam Bostic)のナヨ声(いつもどおり、ホメ言葉です)がより深い甘みを醸し出し、カッティング・ギターでダメを押す。R&Bチャートは19位ながらも、Top100でも72位を記録。幅広い層へ受け入れられた訳だが、もっともっと話題になってもおかしくなかったといえる完成度である。
そんな①のせい?で、それ以降の楽曲にたどり着くまでに時間がかかってしまったというのが、筆者の実である。しかし、それではもったいない楽曲群が続く。
②「Stay With Me」からは、まさしくトニーズ・ワールドとでも言おうか、ギターを絡めた生音を中心にした、からっとしつつも味わい深い楽曲が続く。切なげな②は、ドウェイン(D’wayne Wiggins)が手がけていそうな、憂鬱な雰囲気に生ギターが入るミディアムである。
このギターを前に押し出しているのは③「Special」でも続く。アコースティック・ギターがあくまで裏方で響いてくる構造で、決してフォーキーなソウルにならないところがうれしい。
④「U Changed」はミディアム。リズミカルな中にも、緊張感が保たれており、時々迎える転調によって解放され、肩の荷が下りる感じが面白い。また、ホーンセクションを迎えて、明るく突き抜けるかと思いきや、そこまで至らない⑤「Ridin'」も、その気だるさがかえって心地よく感じてしまう。
-軽い身のこなし-
インタールードを挟んでの⑦「Nature Rise」はイントロの風情から、確実にトニーズ「Anniversary」をオマージュしたもの。ドラスティックな展開はないが安定して楽しめる。また⑧「Touch Of Soul」はスレイヴ(Slave)「Just A Touch Of Love」のほぼカヴァーと言ってもいいライト・ファンク。この数ヶ月後にキース・スウェット(Keith Sweat)が同じ楽曲を取り上げている[*2]ところで埋もれてしまったかもしれないが、こちらも悪くない。
また、⑫「That's How Love Goes」では、アイズレーズ(The Isley Brothers)の「For The Love Of You」を、⑬「Dog N' Me」ではアル・グリーン(Al Green)の「Let's Stay Together」をそれぞれサンプリング。こういった軽い身のこなしが彼らの魅力だったのかもしれない。
-マーケットを意識したものなのだろうか-
セカンド・シングルとなった⑩「All My Luv」は、メンバーのラトリル(Rodney Lattrel Evans)が手がけたスロウ。キーボーディストらしい優しいメロディに、ハネのあるベースラインをのせて、全体を大きく見せようとしたアレンジになっている。
この楽曲のブリッジで入るサックスのソロや、続く⑪「Goin' On」で見せる軽さが黒人マーケットから少しはみ出し、コンテンポラリー~ポップな方向性を見せている。このあたりが、彼らの持ち味と言えるのではないだろうか。既出の①のチャートアクション(R&Bではそんなに、でもTop100には入る)に、そのあたりが加味されたのかもしれない。
(2021.11.20)
[*1]トニーズの3rd『Sons Of Soul』(1993)から4th『House Of Music』(1996)の間の期間で、メンバーはそれぞれプロデュース活動を行っていた。ドゥエイン(D’wayne Wiggins)がブルー(Blue)、ラファエル・サディーク(Raphael Saadiq)がオーティス&シュグ(Otis & Shugg)、そしてティモシー(Timothy Christian Riley)がアートゥン・ソウル(Art N Soul)と、それぞれが名作を手がけた。
[*2]1996年の名作『Keith Sweat』所収。リリースの年は同じだが、作品(楽曲)のリリースは、アートゥン・ソウルのほうが早い。