1. 『Sharp』
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『Sharp』(1987)1987
the real thing

Review

-ソロ・デビュー作-

リネイ・ムーア(René Moore)決別し、ソロへ転じたアンジェラ。その第1段は、ニュージャックスウィングへ移行するブラックミュージックシーンにおいてリリースされた。デュオ時代から、時流に乗せるものもあれば、エヴァーグリーンな楽曲を届けてくれていたアンジェラだが、ここではさらに進化させたような作品に仕上げている。

-A面・B面に分ける意義と喜び-

前半を“Slammin' Side”、後半を“Quiet Storm Side”と区分しているところがアナログならではなのだが、明確な違いを打ち出している。ご想像のとおり、前半はファンキーなアップを、後半はスロウで固められている。
 前半は、時流の音=現代ではちょっと辛いような音作りが並ぶ。デュオ時代に通じるようなエッジの効いた①「Sharp」に続いて、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)の面影が迫ってくる。オマージュともいえよう②「Sensual Lover」は、マーヴィンの「Sexual Healing」をなぞっている。アンジェラは3作目でも「Inner City Blues」を取り上げており、彼に心酔していたことがよくわかる。どことなく、アイズレー・ジャスパー・アイズレ(Isley Jasper Isley)の「Caravan Of Love」を思い浮かべるのは、やはりロナルド(Ronald Isley)が参加しているからなのだろうか。
 単調なビートが時代を感じる③「Run To Me」は、前年にヒットしたプリンス(Prince)の「Kiss」を意識したものだろう。時流の音をしっかりとちりばめるアンジェラは、この辺の“リスナーが求める音”への嗅覚が優れているのだろう。この楽曲は、アルバムの(ヒットするための)ボトムアップになっている。

-価値を大きく上げるスロウ-

シングルは前半のアップから選ばれるのがセオリーなのだろうが、選ばれたのは妖艶なスロウである⑥「Angel」であった。その選択は正しく、R&Bチャートを制し、さらにソウル・トレイン・ミュージック・アワード(Soul Train Music Award)最優秀女性R&B・ソウル・シングルにもノーミネイト[*1]されるという大ヒットになった。揺るぎない意思をもった愛を確認する歌詞とアンジェラの歌声がしっくりとはまっており、30年以上経過した今でも古さは感じさせない。
 そのままロナルドとのデュエット、⑦「Hello Beloved」[*2]へ。イントロの音作りがまさしく80年代末期という感じの優しすぎるアイズレーマナーを含んだバラードは、2人の私的感情も充填され、最高にとろけるメロウな楽曲仕上がっている。

クワイエット・ストームはそれだけでは終わらない。リネイへむけたような詞が気になる⑧「You Had A Good Girl」は、もっと時代が進んでいたら、アーニー(Ernie Isley)のギターが似合いそうなミディアム。Spotifyの再生回数は、についでの人気である。
 トリを飾る⑨「No One Has Ever Cared」はアンジェラの力強いコーラスに続くファルセットとのギャップが楽しめるスロウ。打ち込みの音に古さを感じるものの、それも味である。

-珍しく偏った解説-

解説付き輸入盤は、吉岡正晴さんが担当。紙面の半分を⑥~⑨の、つまり“Quiet Storm Side”のことを記述していらっしゃる。その明確な推しはやはり正しく、筆者も賛同する以外無いのだが、決して前半が捨て曲というわけではない。時代背景も含めて楽しみたい1枚である。

(2021.11.13)

[*1]授章したのはナタリー・コール(Natalie Cole)「I Live for Your Love」。この年(1988年)のグループ最優秀アルバムには、我らがリヴァート(Levert)『The Big Throwdown』が選出されている。
[*2]この楽曲の邦題が「ハロー!あなた」。いくら何でもそりゃない。せっかくロナルドとのスロウジャムなのに、この邦題だと詞が入ってこないのだが…。

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